「成長企業のアジアM&A展開と買収後のバリューアップ戦略」 | アジア全域進出企業インタビューならヤッパン号


成長企業のアジアM&A展開と買収後のバリューアップ戦略

MIMSグループ 代表取締役 坂井康展
Will GROUP Asia Pasific Pte.Ltd Director 兼 GM  北川聡
Will GROUP Asia Pasific Pte.Ltd Director 兼 COO 北村博志  

成長企業のアジアM&A展開と買収後のバリューアップ戦略

2019年9月、東南アジアでのビジネスをしている、もしくは検討している日本の経営者・海外担当者が参加したイベントYappan-Go Asia Summit 2019がシンガポールで開催された。日本企業の海外M&Aを活用した進出事例として、坂井 康展(MIMSグループ 代表取締役) 、北川 聡(Will GROUP Asia Pasific Pte.Ltd Director 兼 GM)、北村 博志(Will GROUP Asia Pasific Pte.Ltd Director 兼 COO) がイベントでパネルディスカッションした様子をお伝えする。


まず、自社・自己紹介をお願いいたします

坂井MIMSは1963年創業以降50年間以上にわたり「医薬品辞典」を発行している会社で、2015年に日本の株式会社エス・エム・エス(以降、SMS)が買収し、現在、シンガポールを中心にAPAC17か国、32オフィスで事業展開している会社です。基幹事業は、もともとMIMSが行っていたPharmaMarketing事業です。製薬会社から提供される医薬品情報を、辞典やアプリ、Webサイトなどマルチチャネルの形にして、医師や薬剤師やナースといったHCP(HealthCareProfessional)の方々に提供し、製薬会社から情報掲載料を頂くビジネスです。さらには、医師が処方箋を処方した際のエラーチェック行うシステムを医療機関向けに提供し、現在12か国で12,000件以上の医療機関に導入いただいている方エラー検知システム事業があります。 買収後にはSMSが日本で医師従事者向け人材紹介サービスの業界No.1だったことから、そちらのノウハウを投入し、APACでも医療従事者向けの人材紹介サービスを提供しています 北川:株式会社ウィルグループは1997創業の総合人材サービス事業で、従業員約3500人、売上1千億強、東証一部に上場している会社です。事業領域は、小売業等でのセールスアウトソーシング事業、コールセンターアウトソーシング事業、工場における人材派遣等のファクトリーアウトソーシング事業などを行っています。純日本企業であった当社ですが、2011年にシンガポールの人材派遣会社の買収したことを契機に海外進出を進め、2014年以降マレーシア、ミャンマー、オーストラリアの会社を買収。8年間で11社、オフィスは33、売上は1億円が330億程度へ、従業員は4名から450名へ、自分たちが一から立ち上げたオフィスはひとつもなく、全てM&Aで規模拡大してきました。北村がM&Aの交渉から財務・ファイナンスを担当、私が買収後の承継者をどうするかといった管理面・PMI担当と役割分担しています。

クロスボーダーM&Aの背景と変遷についてお聞かせください。

坂井SMSは2003年創業、「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」という理念もって、高齢社会向け情報サービスを提供している企業です。創業から今まで変わらず、事業ドメインは「高齢社会」、「情報インフラ」です。社会的ニーズもあり16期連続増収増益を続けている企業です。しかし、統計学の中で最も信頼に値するといわれている、将来的な人口予測が減少傾向の日本において、いずれ日本市場はシュリンクしていくことを見越した創業メンバーが創業2年目から海外に人を送り、現地での事業可能性の模索を続けていました。探索機を飛ばすイメージですね。初期フェーズは小さな買収を繰り返して情報収集を行い、次フェーズではいくつかの国で買収した企業の経営者を入れ替えたりしながらハンズオンで実際に事業展開にチャレンジしました。10年近くアジアを見て回った過程で、どの国を見ても医療業界においてはMIMSのシェアが大きく、よく競合していたので、アプローチをかけて2015年に入札で買収が実現しました。 北川:当社の場合、2011年当時、進出国について入念な調査をしたわけではありませんでした。日本の人口は減少傾向にあり、“国内の人材ビジネスについては未来がない”、“海外に出たほうが良いんじゃないか”、という意見が社内であがりました。ちょうどその時に、たまたまシンガポールの日系人材会社Goodjobcreationに出会い、シンガポールは法律がフェアで、日本人も多く、多くの点で初心者向けの海外進出先として条件を満たしているということもあり、買収しました。当時社員は4人、毎年赤字決算の会社でしたが、まずはこの会社で“海外ビジネスとはどういうことだろう”、“当社にとって未来があるものなのかを確かめよう”と考えました。私がまさに探査機として1人シンガポールに渡り、実際に海外でのビジネスを目と手でやってみました。3年程度で日系の海外人材事業もやっていけるという手ごたえがあったので、2014年にローカルの人材会社を買収。次にアジア各国、続いてオーストラリア企業を買収。近い国、近い文化から着実に実績を積み、買収と共にスケールアップしていきました。 北村:当社の買収では、全ての案件において最初に100%出資することはなく51-60%を取得し、数年後に事業拡大が見えてから100%資本化するスタイルをとっています。その理由の1つ目は、入口の価格を抑えたいからであり、2つ目は買収後に経営者をすぐに入れ替えると会社の価値が大幅に減少してしまうからです。我々自身、その国で事業を興すことも改善することも難しいだろうという中で、M&A戦略を選んでいるので、経営者には数年は残ってもらい、一緒に次のステージへの展開を考えてもらうようにしています。

M&A後の苦労やバリューアップの戦略についてお聞かせください

坂井買収先の国の数が多く、事業モデルも異なる点に最も苦労しています。国×事業の組み合わせた数だけ価値観があるわけで、それぞれから不満や要望が出るたびに、対処しなければいけません。もともと非上場の会社を買収すると、それまでに必要なかった月次決算を回す費用と手間もかかります。国によって考え方が異なり、国の経済レベルの発展度合いにもより、文化の差を埋めるのは大変です。給与や評価面での国による捉え方の差も感じます。日本では、“仕事の報酬は仕事”、“責任のある仕事を与えて喜ばれる文化”がありますが、発展途上国の中には、給与や評価を上げることが最大の価値と受け取る国がまだ多く存在し、どこまで統一し、どこをローカライズするのか、見極めが難しい作業です。 新しいチャレンジ領域の買収時には、初期はよく観察し、不足しているものはこれではないかと仮説を立て、その道の有能な人材をアサインして、仮説の検証を実行します。日本で成功していた医療従事者向け人材サービスについて海外へ移植する際には、各エリアで重要な役割を果たしている企業をターゲティングして買収し、スケールアップとともにバリューアップも進めています。 北川言語と文化の違いに大いに苦労しました。私自身英語はほとんど話せない状態からスタートしましたので、伝えたいことを伝えるのに必要以上に時間がかかり、相手の要求も理解できず、英語でのコミュニケーションが大きなストレスでした。自分なりに絵や図を描いて説明するなど工夫をして乗り越えてきました。また、文化による差は、業務の進め方から給与制度まで影響します。彼らは報酬ファーストで、“報酬をもらってから結果を出す”という考え方で、その要望金額も高額のため、どうやって日本の本社の了解を取るか、文化の違いをどう整合させていくかが難しかったです。 買収後の関わり方ですが、どこまで踏み込むかというと、当社の場合はほとんど踏み込みません。経営陣には残ってもらうし、仕事のやり方にも口出しをせず、ブランディングも残し、最低限、会計部分や事業計画の作り方だけは指示し、何をどのような戦略で進めていくのかを俯瞰的に見ています。自分たちでできないからM&Aをするわけですし、途中からその国のことを理解していない日本人が介入してもうまくいきません。最初からこの人たちならば任せられると目利きをもって選んでいますので、このままではうまくいかないかも、と思う時でも、彼らを信じて目をつぶってすべて任せます。結果的に、ほとんどの会社は買収後も売上を伸ばしてくれています 北村:会計ルールの徹底について、国と文化の差は大きく、日本は正確性を求める一方でアジアでは9割できていればよいという感覚です。その1割を埋めるべく私が入って調整をしてきましたが、管理部門は私以外日本人がいません。J-sox法などの概念がない国に対してそれを導入するのは軋轢も大きいですので、どうしてやらなければいけないのか、日本側の要求をシンガポールのローカルメンバーへその背景からきちんと伝えて、彼らからまたローカル企業へ展開をして理解を深めてもらっています。 アジアにおける今後のM&Aの展望についてお聞かせください。 坂井当社のM&A部隊は常に2つのアングルで見ています。1つ目が医療の領域は法律や習慣で形作られており、基本構造は一緒なもののそれぞれ市場毎のパワーバランスが異なるため、既に成立している特異なマーケット構造にフィットしている事業体を探すアングル。2つ目が顧客基盤、サービス基盤など既存の事業に直接シナジーがあるものを探すアングルです。この2軸で今後も展開をしていく予定です。 北川:今年度2件の大きな買収を実行したので、しばらく大きな案件はない予定ですが、海外企業の管理業務を一括アウトソースできる会社があれば価値があるかと考えているので、いくつかターゲティングは進めています。その企業が過去どれくらい利益を伸ばしているかを最初にみて、買収前の一番重要な時に伸ばせない企業は信頼しないようにしています。 今後はさらにバリューアップできるような企業の買収、中国やアメリカへの進出、人材業界以外にも切り込んでいきたいですね。 

※[概要] Yappan-Go Asia Summit 2019 2019年9月12日(木) 主催:Ishin SG Pte.Ltd. [セッション] 「成長企業のアジアM&A展開と買収後のバリューアップ戦略」 [スピーカー] MIMSグループ 代表取締役 坂井康展 Will GROUP Asia Pasific Pte.Ltd Director 兼 GM  北川聡 Will GROUP Asia Pasific Pte.Ltd Director 兼 COO 北村博志 [モデレーター] ISHIN SG Pte. Ltd. Managing Director 永井 貴之 ※「Yappan-Go Asia Summit 2019」(2019年9月)で行われたセッションより抜粋・構成しました。

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