―まず、自社・自己紹介をお願いいたします。
千住:日本において2007年創業、名刺を中心としたBtoBのクラウドサービス『Sansan』、個人向けの名刺アプリ『Eight』を提供している会社です。
私は入社12年目で、創業初期からのメンバーです。Eightの立ち上げ時から今年の4月まで携わっていました。
シンガポール拠点に目を移しますと、2015年から支社を作って営業を開始しました。そこから4年間、名刺を企業の資産に変え、個人が活用できる状態に変えていくというサービスを四苦八苦しながら提供しているという状況です。現在は、BtoBの商材Sansanに注力し布陣しています。
出岡:もともとは、日本でネットエイジという会社から始まり、その後NGI、現在はユナイテッドという会社名になりました。私はネットエイジ時代の2004年からモバイル広告をやっています。今から4年前の2015年9月に、東南アジア展開をしようということで、日本でやっている事業の一部をマレーシアに持ってきました。
インターネット広告において、広告収益モデルのインターネットサービスのメディアに、どういったマネタイズができるかといったコンサルテーションをしています。
マレーシアには私含め13人いて、日本人は3人、現地メンバーが10人という内訳です。マレーシアを選んだ理由は、英語・中国語・マレー語を話せる人材をシンガポールの大体3~4分の1のコストで採用できるということです。
古閑:元々インターネットマーケティング会社の株式会社ベーシックの事業としてスタートしました。2012年当時、会社のテーマとして、『スマートフォン』と『ソーシャルメディア』と『アジア』という3点がありました。その要素の中で、『アジア』については当時から運営していたフランチャイズのポータルサイトにおける、“本部様と加盟店様をつなぐ”という事業を足掛かりに、「海外でも日本のフランチャイズをやりたい人がいるのでは」という所からスタートしました。我々自身も海外での事業経験がなかったのですが、初めに讃岐うどんの本場である香川県の「たも屋」といううどん店と組んで、シンガポールで2013年に直営店として開店しました。その後、フランチャイズの本部としての権利も取得して、我々が本部としてアジアの国々で現地のパートナーとフランチャイズ契約を結んで、現在は4カ国で8店舗展開しています。
その後、各国で同様の実績を伸ばし、5カ国で5ブランド様のフランチャイズチェーン展開するご支援を行っております。
―海外進出の経緯と、なぜご自身が海外責任者に選ばれたのかという点をお聞かせください。
千住:私たちの場合答えは明確で、『そこに名刺があるから』というのが海外展開する理由です。世界中に名刺はあって、日本できちんとビジネスを築いたら世界へいこうとずっと考えていました。
私がそこにアサインされた理由ですが、まず私が創業2年目より入った古参メンバーで、こちらからの声が日本に無視されないというようなことが挙げられると思います。経営陣とも喧々諤々やってきたので、彼らに対しても負けずに発言できるという部分ですね。それと、入社後3年間バックヤード(会計・経理・法務・総務など)や増資なども担当し、会社全体を見渡せる視野があるという点も任せられた理由の一つだと思います。更に、Eightの立ち上げをずっとやっていて、シンガポールに来る前はインドで1年半、Eightのビジネスを広げる活動をして成果を上げてきました。その事からも、「千住ならどこへ送っても大丈夫だろう」という雰囲気が経営陣の中ででき、芽が出始めているシンガポール事業へ海外リソースを集約する狙いもありアサインされたのだと考えます。
出岡:弊社はインターネットのアドテクノロジーをやっていて、日本である一定程の規模まで成長しました。そのタイミングで、もともと私が海外でやりたかった想いもあり、メンバーを一人マレーシアに2015年に赴任させました。その1年後にマレーシアでの事業が伸びたということもあり、私も赴任することになりました。
それまでは国内で広告事業の統括をしており、海外に出るときは国内の全て権限を委譲して、マレーシアの責任者を任されました。
古閑:先ほども申し上げましたが、ベーシックでは、引越し見積もり比較といった比較サイトや、ウェブマーケティングメディアの運営をメインで行っていました。社内でスマホ・ソーシャルメディア・アジアというキーワードがあり、会社の事業の中ではフランチャイズというのが一番アジアとの接点を見出しやすいんじゃないかというところで、国内でやっているものを海外でも広げて事業領域を拡大するというのが海外進出のきっかけであり目的でした。
―当初思い描いていた仮説と現実のギャップについて教えてください。
千住:「ビジネスモデルの読み間違い」と「価値の伝え方」がこの4年間で大きな失敗でした。
今は、一つ一つの契約を積み上げて行って、その中でお客さんの声を聞いてフィードバックをやって、プロダクトもちゃんとエンハンスしてというサイクルをきちんと回すことが一番の近道だと身をもって感じています。しかし当時はそのサイクルのスピードを遅いと感じ、もっと早く売り上げを伸ばすことばかり考えるあまり、日本で成功したのとは異なったビジネスモデル戦略をとるというかなり野心的なチャレンジをしていました。日本では1IDあたりいくらというサービス。当時シンガポールでやっていたのは、“名刺を500枚までストレージでき、会社の同僚を招待できます”というプロダクト中心のサービスで、デジタルマーケティングで広めていました。海外でも名刺はどこにでもあり、1社1社回って売っていくという作業が途方もなく感じ、グロースを求めるあまりビジネスモデルを変えるという手法を取っていました。
3年くらいかかってもう少しお客様の要望を知るためにローカルスタッフを雇ったりし始めた段階から、やはり「直接価値を伝えれば自分たちが広めたいことをわかってもらえる」ということをだんだん体感できるようになりました。「名刺を共有する」というコンセプトを広げていく、そこの簡単さ加減・難易度をかなり間違えた判断・決定が、大きなギャップを生んだように思います。
お客様とダイレクトで話をして、僕らの価値が通じるのかというのを、日本人ではなく、ローカルの人がきちんとやるというのが一番芽が吹いたところだったので、それを早めできていたらまた違った道が図れたのではと考えています。
出岡:私がマレーシアに来る1年前から、東南アジアのインターネット広告は、規模は日本に比べるととても小さかったのですが、調べた結果100数十%で急激に伸びていて、その情報だけを頼りに来ました。偶然私が来た年が、世界的にスマホゲームの出稿がとても伸びていた時で、毎月売り上げはどんどん伸びて行って、まさに仮説通りだと。その年も黒字で終えたのですが、翌年からゲームの出稿がぴたっと止まって、毎月とてつもない角度で売り上げが下がっていって、全然仮説と違う状態になりました。
未だにそうですけど、東南アジアは、トラフィックはすごく伸びているが、広告主で言うと限定的で、日本に比べると少ない。広告主からするとトラフィックを安く買えるからいいのですが、広告の需給でいうとくずれている、という感覚がまだまた続いている。
来た当時は自社のソリューションで勝負して勝てていたので、これで行けると思っていたのですが、マーケットが崩れた途端、色々なソリューションを見て、自社のソリューションは「日本ではマッチしていたが、東南アジアではマッチしない」という結論を昨年出しました。今は自社のソリューションを少しは使っているものの、異なるソリューションを使ってビジネスを展開しています。
古閑:当初思っていたところと近かったのは、日本食とか日本のフランチャイズ店は海外でも関心をお持ちの方が多く、我々も全く何もない状況からやってみたのに、これだけ実績があるというのは、我々が頑張ったというよりは、もともとのニーズが潜在的に多大にあるところに持っていったからだというのが一つあります。
仮説と違ったところは、もともとは「日本のものをそのまま」と思っていましたが、うまく行かなかった点です。讃岐うどんも日本と同じままでと思い、ローカライズはいらないと胸を張っていました。しかし、結果は逆でした。やっぱりローカライズはすごく必要と今は思います。その国にあった味付け、メニュー、受け入れられやすい提供の仕方、値段や量など、対応すべき点が沢山必要であると感じています。
またフランチャイズオーナーになる層に関しても、少し仮説とのギャップがありました。最初にフランチャイズオーナーとして思い描いていたのは、まずお金があり、東南アジアのショッピングモールの好立地物件を抑えられる華僑系の人脈を持っている層です。次いで、オペレーションができる事。その上で意気投合できる事というような順番でずっと探してきましたが、失敗もありました。
あまりお金持ちだと「事業=趣味」になってしまい、オペレーションへの緊迫感や本気度合いが足りないので繁盛店にならないケースがありました。そこで直近2年位はフランチャイズオーナーを探す優先順位を変え、お金はある程度は必要だがそれよりもオペレーションへの情熱も関心もある人を探して、オペレーションを支援しながら繁盛店に持って行くという形にしています。そうすると物件や資金等のことは後からついてくる。そこが当初の仮説と違ったところです。
―個人として、海外に出たからこそ、見えてきたものとは
出岡:私のいるマレーシアには大まかに分けて3つの民族がいるといったような、多様性があり、バックグラウンドが様々な人たちと働くということは難しい反面、うまくいくと楽しいですし、よりできることも増えてくると実感しています。そういった体験を今後に活かしていきたいと思っています。
千住:海外に出てみて改めて感じるのは世界中にニーズがあるなと。海外での成功体験によっていわゆるベンチャーに入ると決めたときのような熱い思い、「信じてやりきればそこにマーケットができ、世の中に価値が広がる」みたいなことを次の世代に伝えていくことができるのは、すごくよかったなと思います。
まだ今見えてきているのは最初の段階だけだと思うので、これをやり切ればまた次のステージに行けるんだと考えています。
古閑:お手伝いや支援をさせて頂いている企業様を見ていると、事業が展開するにつれ、良い意味で”海外”と構える部分が自然となくなっているように感じます。無意識にシームレス・ボーダレスな思考になり、マーケットを捕らえる視野とか感覚の部分に変化が起きているんだと思います。自分自身を振り返った時に自分もまたそうだったなと感じ、海外に出たからこそ考え方が広がったなと思っています。
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