トップ自ら海外で指揮を執る理由
―日本企業の海外進出パターンにおいて、①トップ自ら移住、②責任者を抜擢して立ち上げ、③ローカル企業をM&A、④海外で起業などがあげられると思います。
その中で、なぜ経営者自ら海外へ行く事を選択されたのでしょうか?
柴田:当社の場合、【①トップ自ら移住】、【③ローカル企業をM&A】のハイブリッドでした。GEのトップだったジャックウェルチ氏の本に「新規事業を立ち上げたらトップ自らが宣伝しまくらなければいけない。」とあり、それをすごく良く覚えていました。日本が海外事業をやる場合、なおさらトップ自らがやらないといけないと感じたのが①を選択した理由で、一方で自分たちが全部運営までできるかといったら我々の業態ではそれはかなり難しいとも感じていたので、③も併せて行いました。
間下:海外展開した場合、現地からの報告は、規模が小さい、内容がよくわからない、下手すれば英語で報告されるので、それがどこまで正しいか日本からでは判断が出来ないため、日本のオペレーションはそれを無視しがちになります。でも、トップが海外にいれば本社は無視できないじゃないですか。トップが移る意味ってそこにあって、最初は【②責任者を抜擢して立ち上げ】をして3年程度たってもうまくいかなかったので、【①トップ自ら移住】を行い、その次によい縁があって【③ローカル企業をM&A】を行いました。
-シンガポール移住のタイミングとキッカケについて聞かせて下さい。そもそもなぜシンガポールだったのでしょうか?
柴田:テクノロジースタートアップを立ち上げるのに世界のどこがいいかというと、パッと思いつくのはシリコンバレーです。しかしコストが比じゃない高さ、採用コストも高い、いい人材も集められない、リテインするのも難しい。ではアジアならどうかと考えると、情報も人も集まっていて、取引先も多い、アジアのヘッドクォーターが多いなどの理由から、消去法でいくとシンガポールが一番だと思いました。当社のtrip101の場合、メインマーケットがアメリカになってきている一方で、運営メンバーはシンガポールのみならずかなりの数がインドやネパールなどからクラウド、リモートベースで働いていますし、エディターは世界中に散らばっています。故にここにいる意味はあるのかとも考えさせられますが、現時点では最良の選択肢の一つだとは思います。
間下:東南アジアで考えたときに、家族を連れてくることを考えたら「圧倒的に安全な国」、「日本への移動が楽」という事がシンガポールを選んだ理由です。生活費は高いですが、安全を買っているので仕方ないですね。最初の展開国としてはコスト的に有利なマレーシアを選んでアジアを攻めていましたが、私が移住しシンガポールの企業を買収し、シンガポールのマーケットにベースができたのでここに注力をし始めたというわけです。節税に関してもよく聞かれますが、将来的に会社を売れば効果はありますが、今だけみるとマイナスですね。
ートップが移住されたことで、日本の既存事業が傾いたり、危機に直面したことはありますか?また、社内コミュニケーションはどのように取られているのでしょうか?
柴田:コミュニケーションに対し、やはりジレンマを常に感じていることは間違いないですが、代表権を持つ共同創業者が東京ベースできちんとやってくれているので、ある程度の役割分担ができています。ただそれでも大変なことは多く、体が2つ欲しいくらいです。日本だとクライアントと食事したりすることも重要な仕事になることが多いですし。。でも日本にだけいたら、海外事業がうまく維持できたか?というとやはり難しかったと思います。
間下:日本のオペレーションはチームがしっかりいますので、デイリーのオペレーションは直接は私はやっていません。大型案件、新規事業やPR、IRなどはみているが、他は任せています。オンラインのコミュニケーションが実現できているので、どこにいるかの影響はかなり最小限になってきています。逆に、トップがその場にいるから可能になることは多々あるので、私がシンガポールにいるから会える人がいたり、動き回ることで生まれるメリットがあります。
-リモートミーティングをやると効果がある場面はあるか?
間下:テレワークは、マネジメント層と現場とで根本的に違うもの。マネジメント層はテレビ会議ツールがあることによって、世界中どこにでも居るべき所にいられるのです。その場にいることで物事が動くことが多い一方で、現場においては移動そのものを減らすことができます。使い方においても、大きな会議室にほとんどのメンバーが集まり、1人がテレビ会議で参加するのは非常にやりづらいです。参加者全員が1台ずつPCを使ってテレビ会議をするほうが、全員が対等であり、圧倒的に生産性が高いです。
―海外にこれから進出する経営者に向けてのメッセージと御社のビジョンをお聞かせください。
柴田:最も大事なことは、「ゴールを何に設定するか」だと思います。東南アジアでいくつかの国で圧倒的なシェアを取りたいという場合もあれば、欧米や中国などの市場を見据えグローバル戦略したいという場合もある。業種業態を考慮して、きちんとした現実的なゴールを設定し、それから逆算して何が必要かを考えると良いと思います。また、それぞれの国のローカルマーケット、国際マーケットでは、海外の人とのネットワークをどうやって広げるかが重要です。それが結果的に、人材採用にも繋がるし、色んな所で繋がっていく。それが日本の経営者の方々に最も必要な部分じゃないでしょうか。私の場合は、ローカルスタートアップの社外役員をしたり、ボードに入ったり、イベントに登壇したりと積極的に出ていくことで人脈形成をしてきました。日本も含めて、世界中のインダストリーイベントで年に20~30回お話させていただいています。自分のブランドを作っていかなければいけませんから、図々しいくらい前に出ています。
僕の場合は、せっかく事業に打ち込むのであれば、
間下:「トップクラスが海外に出ていかないと何も進まないのでは?」と思っています。スタートアップや中堅のベンチャーなど小さな会社は特に厳しいでしょう。その上で、日本企業に売れて終わり、では海外進出にならないので、ローカルコミュニティに入っていかないといけません。
我々のビジョンは東南アジアを中心に伸ばしていくことと、アメリカとのブリッジも進めていくことです。アメリカから見ると日本や東南アジアはよくわからない地域で全くうまくっていない状況なので、我々がローカライズしながら、アメリカのテクノロジーを日本にもってきて、インプリして、東南アジアに持ってくるということをさらに拡大していこうと考えています。
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