事業の立ち上げと海外移住
―まず柴田様より自己紹介・自社紹介をお願いします。
柴田:旅行系のテクノロジー・スタートアップ企業で、設立当初は日本で『トラベルjp(トラベルジェイピー)』というオンライン旅行比較サイトや『コネコネット』というショッピング検索サイトの運営をしておりました。2015年からシンガポールでもグローバル市場向けにオンライン旅行メディア『trip101』というサイトをスタート。グループ内に連結子会社として韓国のモバイル旅行比較アプリ『allstay』というスタートアップがあります。
日本では2018年にLINE株式会社と資本業務提携をしてブランド統合し『LINEトラベルjp』としてLINEのアプリ上でも旅行サービスを運営しています。これらのサイトの1つの大きな強みは世界中に700人強の旅行ライター、ブロガー、コンテンツクリエーター、インフルエンサーなどのネットワークを持ち、世界中の旅行ネタをメディア化していることです。
―なぜ起業し、どのようにここまで成長されたのですか?
柴田:2001年に4名で創業しましたが、創業時のファウンダー持ち分が1.7%しかないという強烈な資本政策で始まり、まさに“Roller-Coaster Journey”、アップ&ダウン経営の繰り返しでした。短期間でIPO、MBOなど様々なコーポレートイベントを行ったため、母校のハーバードビジネススクールのケーススタディになったほどです。
2008年に上場し、2012年に全額借入でMBOをしました。その翌年、かなりのグッドタイミングで、旅行以外で運営していたショッピング関連の事業をヤフー株式会社へ譲渡させていただけたので、株をすべて買い戻した後に事業売却し、結果的に借りたお金を一気に全部返せました。これはミラクルでしたね。
旅行産業は世界で最大規模の産業の1つで、特にアジアは世界で一番大きな旅行市場になると言われていたので、この事業を続けていくのであれば世界でも勝負したいと考え、シンガポールで法人設立しました。最初にアジアの旅行系のスタートアップへの投資を行い、ネットワーク形成を進めました。その投資先の一つが現在韓国で抱える連結子会社の『allstay』です。その流れで、2015年に当時投資していた1社のシンガポールの会社Flocations社を買収し『trip101』としてリブランドして、100%子会社として僕自身がCEOとして経営をつかさどっています。
『LINEトラベルjp』は、非常に好調で【国内で最も急成長している旅行サイト】と呼んでいただいており、JAL社、ANA社と同程度の規模のサイトとなっています。サイトのユーザー数はかなり伸びており今年8月には月間訪問数2600万人を突破しました。加えてLINEアプリ上では1年間強でゼロから1900万のお友達登録者数へと急増し、LINE社との提携は大きな効果を生み始めています。
もっと急速に伸びているのがシンガポールの『trip101』で、過去36か月でトラフィック数が7倍、売上は10倍になり、利益を伴って成長をし始めています。それまではキャッシュフローが苦しかったのですが、過去12か月で恒常的に月次黒字になってきました。そして、今やアジアのビジネスではなくグローバルビジネスになりつつあり、世界233か国からのアクセスをいただいております。一番多いのがアメリカで50%。続いてUK6%、カナダ、フィリピン…といったアクセス元になっています。英語できちんと世界に向けて発信をして、受け入れられると、やはり各国のユーザー様に支援いただけるということが認識できました。
―海外進出を決めた時、アーリーステージの投資から始めようというのは最初から決めていたことですか?
柴田:シンガポールへの進出時は、明確に決めていたことではありませんでしたね。シンガポールでは国際イベントが多く、その中に『WiT(Web in Travel)』という大きなトラベルテックに特化したカンファレンスがあり、2010年頃から毎年呼ばれるようになりました。そこで、市場のダイナミズムを感じ、ここで何かするのは面白いなと感じたのが一つ、それとスタートアップの波が押し寄せていた時期でもありました。また、事業パートナーがもともとVCを経験していたこともあり、投資を切り口に市場に入っていったら面白いかもしれない、ということから、方向性が見えてきました。
これまで個人も含め15-20社ぐらいへ投資してきました。当初は自分たちで投資先を探しましたが、各種イベントへの参加や、『WiT』の日本&東アジア版カンファレンスの立ち上げなどで域内のスタートアップと関わることも増え、業界を特化してネットワーク作りを進めた結果、今では相手から来てくれるようになりました。
―続いて間下様、自己紹介・自社紹介をお願いします。
間下:弊社はTV会議、Web会議、PC、スマートフォン、タブレットを使って、遠隔地のコミュニケーションを実現するためのサービスを提供しており、国内ではトップシェアの会社です。98年に創業し、当初は受託開発から始めて、2003年にアメリカにオフィスを開設しました。当時日本の携帯アプリが進んでいて、アメリカが遅れていたため、日本の技術をアメリカに展開しようと考えていました。その際に日本とアメリカ間では電話やメールでは円滑なコミュケーションができず困ったため、TV会議を導入しようとしたのですが、高価で購入できなかったんです。そこで自社で作り始めたら、“これいいよね”という話になり、2004年から2年間ほどマーケティングを行い、2006年以降はこれ一本にフォーカスしました。現在もビジュアルコミュニケーションと呼ばれる、映像を使用した事業に特化して展開しております。
会社構成としては、私自身は2012年からシンガポールに住んでいますが、ブイキューブが日本で上場している本社で、シンガポールにはV-cube Global Services pte.Ltd.という中間持株会社があり、その下に地域の会社があります。この他に、非連結のインドネシアやマレーシアの会社があります。本体300名弱、6社の子会社含めたグループ全体で500名弱の体制、日本の東証1部に上場しています。連結範囲ではありますが、営業機能と開発機能両方を持ち、日本にもシンガポールにも開発要員がいて、自社の商品を開発したり、他社の商品も含めて販売を行ったりしております。
テーマは「Evenな社会の実現」ということで、いま日本では東京一極集中の問題だったり、育児や介護の条件があったり、働く環境が平等ではありません。結果の平等ではなく、チャレンジするための平等をどう作るか、男性であれ女性であれ、年齢にも関係なく、東京ではなくても働ける環境を自ら選択できる社会をどう作るか。テレワークやリモートワークを活用してどこでも働ける、選べる働き方を作る、会社に来なくても事業を回せるような環境を作ることを目指しています。
最近では日本の駅に「テレキューブ」という名前で、電話ボックスのようなワークスペースを設置しています。今更電話ボックス?と思われるかもしれませんが、仕組みがあっても、物理的にテレワークなどする場所がないという方のため、15分単位で利用可能な、プライバシーが保てる空調の効いた防音ボックスを駅やビル、空港などに設置しているわけです。サービスの提供だけでなく、そういった場所の提供も含めてやり始めています。
―シンガポールのWIZLEARN社を買収したのは販路を得る目的だったのでしょうか?
間下:確かに、「販路の獲得」「ローカルの人材獲得」という意味もありました。ローカル式でローカルオペレーションができているチームをゼロから作るのは難しいので、ローカル式が既に確立している会社を買収する方が早いですし、コスト構造もかなり安く抑えられるというメリットもありました。買収企業先は、仲介会社経由で見つけました。
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