―まず、自社・自己紹介をお願いいたします。
十河:2016年の創業当時からグローバル展開しており、本社はシンガポールです。現在東南アジアを中心に国内外13拠点があり、社員数は600名の会社です。トータルの資金調達額は約40億円です。
なぜ本社にシンガポールを選んだかというと、単純にグローバルに攻めやすいからです。税制の部分とか地理的な部分を鑑みてもシンガポールはやっぱりメリットが大きいですね。グーグルやフェイスブックも、アジアのヘッドクォーターをシンガポールに置いていますし。
事業に関しては、ITテクノロジーにおける、マーケティング領域・エンタメ領域・HR領域の3つのビジネスを展開しています。ユーチューバーのマネジメント事業等も手掛けていたり、その他M&Aも積極的に行っていたりなど、会社の特徴としてビジネスが分散しているところが挙げられます。これは、流れの速いインターネットなどの業界において大きな強みだと思っています。
今現在も新しい事業をどんどん立ち上げ、将来的に新規の国からも収益を出せるような組織づくりを意識しています。
小林:2012年にベトナムでスタートした会社です。拠点は現在4カ国6都市、グローバルで1500人くらいエンジニアを抱えて活動しています。
事業内容は、IT分野におけるスタートアップから大企業までのサービス開発支援です。具体的には、ビジネスのアイデアを持っている人の会社設立をサポートしたり、企業の新規事業を立ち上げたりするのは勿論、その後もエンジニアを送り込んでその企業内のテクノロジーチームとして参加もしています。
また、資本参加して一緒にスタートアップを立ち上げたり、UXのコンサルから始めたり、コミットしてゼロイチで作っていくところにも関わっています。
それ以外には、フィリピンと日本でITスクールを運営したり、ベトナムでは理系トップの大学と産学連携してITエンジニアを育成するといったような、エンジニア養成事業も行っています。
僕らのビジョンなんですけども、僕ら自身を“デジタル・クリエイティブスタジオ”という風に定義をしていまして、“新しいことやりたい”とか、“何か課題を解決したい”とか、色んなパッションを持っている人たちが、「お金がない」とか、「仲間が集まらない」とか、「スキルがない」とか、色んな理由で諦めてしまうという社会を変えていきたいという想いがあります。
―両社とも従業員数・売上共に急成長している印象ですが要因は?
小林:採用に関して、外部に頼るというより自分たちで育てていることが大きいですね。また自分自身がベトナムにエンジニアとして飛び込んだ時に、エンジニア同士の交流やお互いの技術を高めあうような場所がなかったため、プラットフォームを構築したり、イベントや勉強会を積極的に開催したりしました。
当時は扇風機も変えないくらいお金がなかったんですが、ハッカソンを開催して優勝賞金100万円を出すようなこともして、エンジニア業界を盛り上げていった結果、リーディングカンパニーとして認められるようになった点も大きいです。そのおかげで、1か月に1000通ほどの履歴書が届くようにもなりました。
リソース供給というところがボトルネックにならずに、案件を取ってきてソーシングに専念できる状況を作り出せたことも、成長の要因だと思います。
更に、大手企業の保守のような安定する仕事よりも、敢えて自分たちのやりたかった、新しい価値を生む新規事業の開発といった、リスクの高い仕事を選んできた結果、競合他社との顧客のバッティングを回避できたという差別化の要素も大きいと思います。
十河:優秀な人材を採用できたという点が、会社の成長の一つの要因ですね。必ず採用したいと思う人材、特にマネージャー層においては諦めず、自分自身でもかなり積極的にアプローチします。
また、M&Aによって経営者を採用できるといった強みにより、創業当初から優秀な人材を採用できたというのは大きいです。
各国で採用されたエリアマネージャーがそのエリアでトップを目指しながら、互いに意識し合い競争し合う組織づくりもしてきました。
もう一つの要因は、ビジネスモデルやプロダクトをコピー&ペーストでどんどん各国に展開できたところです。グローバル展開のときに、完全にローカライズするのではなく、ビジネスモデルにおいてはグローバル共通の戦略があるべきだと思っています。ただし営業やマーケティングに関しては、間違いなくローカライズが必要です。
プロダクトやビジネスモデルを統一し、各国の営業・マーケティング戦略はローカルの優秀な人材の裁量で行う。そこのバランスがタイミングよく綺麗にはまり、急成長できているのだと思います。
また基本的に、日系・外資・ローカルを問わず、使われるようなプロダクト・ビジネスをしっかり作っていかなければならないという考えを持っています。
インターネットのビジネスは移り変わりが激しく、変化が大きい業界なので、シングルプロダクトで大きくなるのは難しいと考えています。なので、ホームランではなく、ヒットでも、送りバントしながらでも点を決めに行くというようなスタイルで事業に関しては取り組んでいます。市場の状況や今後の世界的な流れを鑑みながら、どこでどういうビジネスするべきかを考え、様々な事業の立ち上げをしています。
その中で東南アジア各国毎に状況は違いますが、国ごとのマーケット規模感やシェアなどについてカントリーマネージャーを集めて話し、お互いが刺激しあい、いい意味で言い訳ができないような組織づくりをしています。
―人材や組織のマネジメントについて教えてください。
小林:弊社は平均給与が市場に比べると少し低いという統計データがあります。ただ、給与を低く抑えているつもりはなく、グローバルに対しての価値提供をしているところに適正な給与かどうかというのを絶対価値で決めています。 なので、しっかり価値が提供出来ているメンバーは、職種関係なく市場より圧倒的に高い給与を出しています。
弊社を飛び出して3倍の給与の会社に就職したが通用せずに帰ってきた、ということが実際にあります。社員を“自ら成長してしっかりグローバルで価値を上げていこう”というマインドに持っていき、それをサポートする環境を提供することで、“この会社に入ると1年で他の会社の3年分の成長ができる”と言っていただけるようになり、結果採用力が強くなったと思います。
マネジメントは、社員の家族を招待する感謝祭を開催するなど、社員一人一人やカルチャーを大事にするような施策を多く実施しています。
十河:組織に関しては、AnyMindという会社に誇りを持ってもらうことやカルチャーを大事にすること、そういうところは創業時から心がけています。
具体的には、どの社員に対してもオープンなコミュニケ―ションを実践しており、ファイナンスや戦略、M&A情報を、少なくともマネージャー陣に対しては共有しています。そうすることで当事者意識が生まれやすくなり、会社の方向性を透明性をもって伝えることができるからです。
異なる国々のカントリーマネージャー達とのコミュニケーションには特別に意識を使ってやっています。私や幹部社員が常に傍にいられるわけではないので、いつでも連絡を取り合い最大限のサポートをする環境を提供しつつ、結果に対してはシビアに対応することもあります。
―海外人事の選出のポイントを教えてください。
十河:意思決定ができる方が来られるのが重要だと思います。ビジネスが現場でものすごいスピードで動いているので、そのスピード感で意思決定をしてしっかりとエグゼキューションまで持って行ける体制を作れるかどうかが重要ですね。
小林:確かに意思決定のところは大切です。その上で豪快さみたいなところも必要かなと思っています。というのは、様々なトラブルが起こる中で、損害を出してもこの選択が正しいという自分の直感や経験からくる勘みたいなものを信じて、ダイナミックな決断ができることが重要だからです。
―今後の御社の展開と、アジア展開についてのアドバイスを頂きたいです。
小林:アジアのスタートアップ業界自体は、今までなんのサービスもない状態から、徐々にローカルのサービスが出てきているという状況なので、ここを最大限盛り上げるためのアジア最大のスタートアップハブみたいなものになっていきたいと思っています。
アジア展開に対するアドバイスは、ステレオタイプで、“この国だからこうだろう”というような考え方はするべきではないと強く思います。その国の文化を受け入れて理解することはあまり必要ではなく、どちらかというと、“正しく知った上で尊重する”ことが大切だと思います。理解する必要はないけれど、個々人にとっての価値観だから尊重する、ただこれは日本人同士でも同様だと思います。意識しすぎず、海外へ出ていった方がいいと思っています。
十河:アジア+中東を含めた50億人のマーケットでどんどんプレゼンスを高めていきたいと考えています。東南アジアでは徐々にプレゼンスが上がってきましたが、インドや中華圏はまだまだ伸びしろがありますし。全アジアを対象としたマーケットでインパクトを残し、活動できる国をどんどん広げて、どこでも通用するビジネスを作っていきたいです。
またアジア展開についてのアドバイスですが、個人的に日本人はアジアの中でも優秀だと感じています。なぜなら日本はITやインターネットの成功のケーススタディや情報を沢山持っていて、その成功体験をもってすれば、アジア地域でも通用する可能性が高いからです。
小林:アジアの起業家に会っていると、社会課題への思いが強い方が多く、このマーケットが空いているから攻めるというのではなくて、大きなテーマを持ってやってらっしゃる方が多いという印象です。
そのことが前提ですが、BtoCのサービスは既にかなり多くある一方で、BtoBのサービスが少ないです。業務効率の改善やエンゲージメント系、HR系のサービスなどが少ないので、ニーズはあると思います。
十河:私もBtoBのところは伸びしろがあるなと感じています。業務改善や採用管理ツールとか、従業員データベースだとか、ペイロールのところなどの領域はニーズがまだまだあるかなと。日本で成功したプロダクト・ビジネスモデルをマーケティングや営業に関してはしっかりとローカライズした上で運営していけば、成功確率は上がってくると思います。
小林:確かに日本人だからこその成功体験は価値が高いと思います。他国で色々なサービスがありますがUI・UXがとても悪いですし。。そこを改善するだけで、どの分野でも勝てる気はしました。日本人だからこそ持っている、快適なUXみたいなものを提供できれば、アジアで戦っていけると思います。
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