2017年11月9日(木)13:30~16:00に東京海上日動火災保険会社(品川)で「海外展開企業のための人事労務・税務セミナー」を東京海上日動火災保険㈱、㈱東海日動パートナーズTOKIO、BDO税理士法人、東洋ビジネスエンジニアリング㈱、 ㈱IIJグローバルソリューションズと共催で開催いたしました。50名様以上のお客様にご来場いただきました。
シンガポール・インドネシア・タイ・香港のBDO Japan Deskメンバーが集結し、赴任者をめぐる労務・税務と各国の最新動向を解説。
日本企業の進出は過去最多を記録
日本の人口減少による内需の縮小や、中国などアジアの台頭による競争激化等を背景に、日系企業の海外展開の重要性は高まってきています。海外に進出している日系企業の総数は堅調に推移しており、平成28年には海外の拠点数は71,280拠点と過去最高に達するなど、今後も引続き増加していく見込です。
海外拠点管理の難しさ
一方で、海外展開に伴い現地特有の労働関連法規、および税制・商習慣等へ対応する必要があるなど、日系企業の海外拠点管理は難易度が高くなってきています。
本セミナーでは、前半に「海外展開を行う際の労務・税務の基本知識」の解説を行い、後半にシンガポール・インドネシア・タイ・香港に駐在しているスタッフが、各国の最新動向をパネルディカッション形式で解説を行いました。
第一部 海外進出の際に知っておきたい基礎知識(税務編)
岸賢一郎 パートナー
日本国公認会計士
会計はグローバルスタンダードがあるが、税制は各国かなり異なる
会計は、国際会計基準と呼ばれるグローバル・スタンダードがあり、各国間での会計基準の違いは少なくなる方向にありますが、税法は各国によって大きく異なります。
これは税収入というものが、各国にとって財源を得るための非常に重要な手段であるため、税制は各国政府の政策等に大きく影響を受けることにあります。そのため、将来においても税制というものは、会計とは違ってグローバル・スタンダードと呼ばれるものに収斂されるのではなく、各国それぞれ独自の制度が適用される続けることになるため、日本企業としては、それぞれが展開する国の税制というものについて、日本の税制との違いを把握する必要があります。
一方で、BEPSや租税条約のような二国間あるいは多国間の国際的課税権の調整を目的としたものも開発・改定されているため、こういった国際税務についても注意を払う必要は当然にあると言えます。
租税条約
租税条約の目的は、二国間の国際的課税権の調整や二重課税の排除等です。日本は、数多くの国・地域との間で租税条約を締結しており、シンガポール・香港・インドネシア・タイとの間でも租税条約を締結しています。租税条約の内容は各条約ごとに内容が異なるため、慎重な検討が必要になります。例えば、日本親会社がシンガポール子会社に対して金銭の貸付けを行っているような場合において、シンガポール子会社が日本親会社に対して利子の支払いを行う際には、シンガポール国内法では15%の源泉徴収が求められますが、日本・シンガポールの租税条約が適用される場合には、10%の軽減税率が適用されることになります。
留意すべき日本の法人税法
日本企業が海外展開するに際して、法人税制上では特に以下の項目に留意する必要があります。
①源泉徴収
②外国税額控除
③外国子会社からの配当に係る益金不算入制度
④タックスヘイブン対策税制
⑤寄附金課税
⑥移転価格税制
このうち、例えば外国子会社からの配当に係る益金不算入制度については、平成21年度の税制改正によって、一定の要件を満たす場合、外国子会社からの配当については95%が益金不算入の取り扱いを受けることが出来るようになりました。そのため、海外子会社が得た利益を日本に還元する場合でも税務上の障害は少なくなっています。
日本の企業が海外子会社等との間で取引を行う場合には、各国での源泉徴収の要否や日本での外国税額控除の適用の可否について慎重に検討する必要があります。また、前述の通り、日本は、シンガポール・香港・インドネシア・タイとの間で租税条約を締結しているため、所得の区分に留意した上で、それぞれの租税条約の内容についても考慮する必要があります。
日本の企業が東南アジアに進出する際には、シンガポールの地理的・経済的・税制等様々な観点から、シンガポール中間持株会社を設立することが多いと思われます。シンガポールの法人税率は17%であるため、シンガポールに中間持株会社を設立するような場合、日本でのタックスヘイブン対策税制が適用されるかどうかについて検討する必要があります。タックスヘイブン対策税制を検討する上では、シンガポール法人に事業実体があるかどうかが一つの重要な要素です。また、平成29年度の税制改正で日本のタックスヘイブン対策税制は大きく変わっているため、特に留意が必要な項目であると言えます。
赴任者の個人所得税
個人所得税において、日本企業に勤務していた従業員が、海外子会社等に駐在員として派遣されるような場合には以下の項目に留意する必要があります。
①居住性の判断
②給与所得の源泉地国の判断
③給与の支給方法
④課税所得の範囲
⑤租税条約の確認
⑥納税方法の確認
個人の場合、居住者と非居住者とで税務上の取り扱いが異なるため、この区別が非常に重要です。特に、各国の税法上、居住者の定義は異なる(例えば、シンガポールではいわゆる183日ルールが適用されるが、日本の国内法上ではそのようなルールは無い)ため、特に慎重な検討が求められます。出向元の国(日本)と出向先の国(例えば、シンガポール)のそれぞれの国内法においてともに居住者とされるような場合には、租税条約にて解決が図られることになります。
給与所得の源泉地国の判断について、日本の税法上、従業員と役員では所得源泉地の考え方が異なります。具体的には、内国法人の役員はたとえその勤務が国外で行われた場合であっても国内において行われた勤務とされます。
また、家族を残して海外で勤務する従業員について、日本で留守宅手当を受け取る場合がありますが、このような日本国内で受け取る給与所得であっても、海外で勤務することによって得る所得であるため、基本的には出向先の国において課税されることになります。日本で支払われているからといって安易に出向先では課税されないと判断することのないような慎重な判断が必要です。
なお、国によって税金の納め方も異なります。例えば、日本では毎月の給与等については源泉徴収されますが、シンガポールでは毎月の給与等に係る源泉徴収が無く、基本的には確定申告を行うことで納税するなど、各国で個人所得税の納税方法の取り扱いは異なるため、この点にも留意が必要です。
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