休眠会社で一定の要件を満たすものは、法定監査、決算書の作成及び法人税申告の義務が免除されます。
【解説】
1.会社法における休眠会社の定義
会社の事業を休止して休眠会社とするための法定の手続は特になく、取締役会等で事業を休止する旨を決議することとなります。
シンガポール会社法においては、事業年度全体を通じて会計取引を一切行っていない場合には休眠会社に該当します。
なお、以下の取引については会計取引とはみなされません。
① 会社秘書役(カンパニーセクレタリー)の選任
② 会計監査人の選任
③ シンガポールで登録してある事務所の維持
④ 登記の維持、会計帳簿の維持
⑤ 企業会計規制庁(ACRA)に対する登録費用、ペナルティーなどの支払
⑥ 定款に従った株式引受の実行
⑦ 合計5,000ドル以下の少額の受払
事業を再開する場合においても休眠を解除することにつき特に法定の手続はありませんので、いつでも事業を開始することができます。
2.法定監査
シンガポール会社法上の休眠会社は、会社が設立から休眠状態である、または前事業年度末から休眠状態である場合には、当該事業年度の監査は免除されます(会社法205B)。
3.年次登記
休眠会社は上記のように会計監査が免除されますが、原則として決算書を作成して定時株主総会(AGM)にて承認を受け、ACRAに年次登記をする必要があります。
但し、休眠会社が非上場会社(上場会社の子会社を除く)である場合には、以下の要件を満たし、かつ休眠会社であることにつき取締役が宣誓することを条件に決算書の作成が免除されます(会社法201A)。
① 会社の総資産額が当該事業年度のいずれの時点においても50万ドル以下であること(判定会社が親会社の場合は連結グループの総資産額で判定します)
② 会社が設立から、または前事業年度末から休眠状態であること
なお、決算書の承認以外に決議事項がない場合には、AGMの開催も免除されます。
4.法人税申告
税務においては、会社が当該事業年度を通じて事業を行っておらず、かつ所得が発生していない場合には休眠会社に該当します。休眠会社も原則として法人税申告を行う必要がありますが、以下の要件を満たす休眠会社については、取締役が申告免除の申請を行いシンガポール税務当局(IRAS)に承認を受けた場合、法人税申告書の提出義務が免除されます。
① 事業を休止した日を含む事業年度までの法人税申告書が提出されていること
② 株式、不動産、定期預金などの投資を行っていないこと。投資を行っている場合、その投資から所得が発生していないこと。
③ Goods and Services Tax(GST)課税事業者のステータスを免除申請前までに取り消していること
④ 今後2年以内に事業を再開する見込みがないこと
休眠会社が事業を再開あるいは所得を稼得した場合には、事業再開等をした日から1ヶ月以内にIRASへ通知を行う必要があります。
上記の免除を全て適用した場合、休眠中の維持コストとしては、本店所在地の維持費用、カンパニーセクレタリー業務の委託費、記帳代行業務の委託費が必要になります。