インドは人口13億人超の経済大国で、中国に次いで人口が多い国です。
インドは1990年代以降の経済安定化制作により、実質GDP成長率を上げてきました。2020年は新型コロナウイルスの影響により実質GDP成長率が低下したものの、新型コロナウイルスが流行する前は、経済成長率は安定していました。
インドが経済成長してきた背景には、何があるのでしょうか。
今回は、インドの経済の状況や特徴について詳しく解説します。
インド経済の状況
主要指標について
インドの主要指標(人口・面積・GDP・一人当たりGDP)は以下の通りです。
人口 | 13億6,641万人 |
面積 | 328万7,469平方キロメートル |
名目GDP | 2兆8,751億ドル |
一人当たりGDP | 2,104ドル |
参考:外務省 https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/india/data.html
GDP推移
インドの直近のGDPがどのように推移しているのか見てみましょう。
(出典:世界経済のネタ帳)
1990年代から2019年にかけて、インドの実質GDPは成長していきました。
1990年代以降に実質GDPが成長した背景に、インドの経済政策があります。
1980年代後半、ソ連崩壊や湾岸戦争の影響により、インドの経済は不安定な状態に陥っていました。そこで1991年、当時のナラシンハ・ラーオ首相とマンモハン・シン財務大臣は経済自由化政策に乗り出します。
1991年の経済改革では、財政再建や金融の引き締めによる経済安定化政策、産業や貿易の構造を変える構造調整改革により、経済の自由化を図りました。
経済自由化政策以後、1991年は2.1%であった実質経済成長率が、1996年には7.6%へとアップしました。
しかし2020年は名目GDPが低下しており、2019年に比べて約7%ダウンしています。インドの経済が失速した要因として、新型コロナウイルスの感染拡大が考えられます。
インドは2020年3月25日にロックダウンを始めました。ロックダウンにより消費活動や生産活動が停滞し、2020年4〜6月の経済成長率は-23.9%でした。特に自動車販売台数は大きく低下しており、2020年4〜6月の販売台数は、前年同期と比べて約8割減少しました。
また新型コロナの影響もあり、インドでは2020年3月に株価も下落しています。しかし2020年11月には株価を過去最高値までに回復させました。2021年以降も、インドの株価は上昇しており、投資家の期待が高まっています。
経済成長率の推移
(出典:世界経済のネタ帳)
1965〜79年の実質GDP成長率は平均3%でしたが、80年代以降は5%台へとアップします。80年代以降に成長率がアップした要因として、経済自由化政策の影響があげられます。
しかし91年は財政赤字の影響で成長率が大きく低迷します。以降は経済改革を進め、成長率を5%以上に戻すことに成功しました。
2000年代以降は経済成長率が5%を上回る年が多く、安定的になります。
しかし2020年の経済成長率は、新型コロナの流行もあり、経済成長率が-9.5%にダウンする見通しです。
産業構造
インドの主要産業は「農林水産業」「製造業」「商業、飲食、宿泊業」の3つです。3つ産業の産業別GDP構成比(2019年)は以下の通りです。
- 農林水産業…16.0%
- 製造業…14.9%
- 商業、飲食、宿泊業…10.7%
■農林水産業
インドは農林水産業の中でも、農業に取りわけ注力しています。インドでは農用地面積の約6割で穀物を生産しており、主要な穀物として米、小麦、サトウキビなどがあげられます。
■製造業
インドは製造業も盛んで、特に自動車部品産業が強いです。2006〜2016年の年平均成長率は、14.3%でした。また今後も自動車部品産業は成長していく見通しで、自動車部品産業の市場規模は、2026年までに2,000億ドルまで成長してくと考えられています。
■商業、飲食、宿泊業
インドは商業、飲食業、宿泊業も強い国です。特に都市ムンバイは約1,400万人が住む商業都市であり、3つの産業に特化しています。
経済の特徴、近年のトピック
インドの経済の特徴についてみてみましょう。
約13億人の人口と若年層の割合
インドの人口は約13億人で、2018年は中国についで世界2位でした。人口は今後も増加する見通しで、2027年には中国の総人口を超えると予測されています。
そしてインドは単に人口が多いだけではありません。インドは若年層の割合が多いため、生産年齢人口比率も大きいのです。
インドの高齢化率(65歳以上の人口の割合)と生産年齢人口比率(15歳以上65歳未満の人口の割合)を、日本と比べてみましょう。
インド | 日本 | |
高齢化率 | 約7% | 約28% |
生産年齢人口比率 | 約67% | 約59% |
高齢化率は日本の約4分の1となっています。そして生産年齢人口は約8億7000万人で、インドの全人口の約3分の1以上です。
インドの生産年齢人口比率は今後も増加していく見通しで、現在インドは人口ボーナス期だといわれています。人口ボーナス期とは、生産年齢人口が非常に多い時期を指します。
人口ボーナス期の国は、生産活動が活発になるため、経済が大きく成長すると考えられています。2040年には生産年齢人口比率が約70%弱になる見通しで、中国も越すと予測されています。
ITに強い
インドは現在IT大国と呼ばれています。海外企業のインドへの進出や、インド人エンジニアの海外就職なども盛んです。
インドがITに強い国に発展した要因として、エンジニアの数が多いことがあげられます。インドのITエンジニアの数は約212万人で世界3位です。
プログラミング言語はほとんどが英語ベースですが、インドは英語を準公用語としているため、インドの人にとってプログラミングは学習がしやすいのです。
そして、インドにはインド工科大学があり、IT系の人材を輩出する環境が整っています。インド工科大学は入学が難しい大学で、倍率は約60倍です。インド工科大学は、国内に23校あります。
またインドにはカースト制が慣習としてありますが、IT産業はカースト制に関係なく、就職がしやすい分野となっています。IT産業は他の分野に比べて新しい産業であるため、カースト制の縛りを受けづらいというメリットがあるのです。したがってIT産業はインドでは人気が高いのです。
IT産業であれば、カースト制に囚われることなく、実力次第で就職ができます。
モディ首相の政策
モディ首相の政策は、今のインド経済に深く関わっています。
モディ首相の代表的な政策の一つとして、一次政権のときに行った「メークインインディア(Make in India)」「デジタルインディア」という政策があげられます。
①メークインインディア
メークインインディアとは、インドを研究開発または製造業のハブとすることを目指す政策です。製造業のGDP構成比約17.2%(2014年)から、2022年までに25%までにあげることを目標としています。そのために、製造業の雇用と輸出の増加を図りました。
2019年時点ではまだ18%にとどまっているものの、エレクトロニクス分野と自動車製造分野における雇用はアップしました。エレクトロニクス分野では67万人の直接雇用を生み出し、自動車製造分野では5年間で27万人の雇用を生み出しました。
②デジタルインディア
デジタルインディアとは、インターネットの普及を進める政策です。具体的には「国民へのデジタルインフラの提供」「行政サービスのオンデマンド化」「国民のデジタルエンパワメント化」を図りました。
結果として、2019年7〜9月期のスマホ販売台数は前年同期比で10%アップし、四半期では過去最高となりました。
また、インターネットおよびスマートフォンの普及率も上昇しています。
【インターネット普及率】
2012年 | 2021年 |
11.4% | 53.8% |
【スマートフォン普及率】
2014年 | 2020年 |
12.8% | 40% |
貧富の格差
2019年、インドは名目GDPが世界5位でしたが、一人当たりの名目GDPは146位でした。インドは貧富の格差が大きい国であり、最富裕層の資産総額はGDPの15%に相当するといわれています。またインドで栄養不足に陥っている人は約2億人いると考えられ、国民の約10分の1にあたります。
インドの都市部であるムンバイやデリーには、富裕層が集中し、物価も農村部と比べると高めです。
現在注力している産業
インドが注力している産業は、主に以下の3つです。
- 農業
- 鉱業
- IT業
農業
インドは農業大国でもあります。インドの農地は1億7,972万haあり、広さはアメリカに次いで世界2位です。2019年の産業別GDP構成比率では農林水産業が16.0%で、一番大きい割合を占めていました。
インドはジュート(黄麻)、紅茶、米、小麦など、穀物類をメインに生産しています。なかでもジュートは世界一生産されており、2018年の生産量は1,951,864トンでした。
インドが農業大国であるのには、歴史的な背景があります。インドは1947年の独立以降、穀物を輸入に頼っていたものの、1960年代に食糧不足の問題に直面します。
食糧不足をきっかけにインドでは、米や小麦を大量生産する「緑の革命」と呼ばれる政策を始めました。インドは緑の革命において、給水に優れたバンジャブ地方を政策の対象とし、政府資金の大量投入、灌漑設備の整備を進めてきました。
結果、インドでの食糧不足の問題は解決し、1970年代後半には食物自給を達成しました。80年代以降も穀物類の生産量は伸びていき、2010年の穀物生産量は2億4,156万トンでした。
鉱業
2018年のインドの鉄鉱石生産量は1億2,600万トンで世界4位でした。インドには小規模の鉱山が豊富にあり、主にポーキサイト、クロム、アルミニウム、銅などの鉱産物が獲れます。
インドでは国家鉱物政策を推進しています。国家鉱物政策では、鉱業に関する研究開発の促進、鉱物資源開発における機械設備の導入、鉱業に対する財政支援措置、長期的な輸出入政策の策定などを定めています。
IT業
インドではIT業も成長してきています。2000年は売上規模が80億米ドルでしたが、2017年は1,540億米ドルへと成長しました。IT産業の売上は輸出がメインで、2017年の輸出の売上は1,160億米ドルでした。
またインドにおけるIT業は、直接雇用の数が多いのも特徴です。日本のIT業の直接雇用は約90万人ですが、インドでの直接雇用は約370万人です。
インドでIT業が成長した要因として、インドはアメリカのシリコンバレーまたはシリコンプレーンと共同開発を進めやすい国であることがあげられます。インドとアメリカの時差は約12時間であり、アメリカが夜のときインドは朝です。
もしアメリカが夜のときに開発途中のソフトウェアをインドに送信した場合、インドでは朝からソフトウェア開発の続きを進められます。以上のとおり、ITに強いシリコンバレーとシリコンプレーンにとって、インドは開発のパートナーとしやすい国なのです。
インドと日本の関係
双方の貿易額とその推移
インドの日本に対する輸出入額、輸出入の主要品目は、それぞれ以下の通りです。
【輸出入額】
- 対日輸出額…5,855億円
- 対日輸入額…1兆1,965億円
日本-インド間の輸出入は、対日輸入が過剰な傾向にあります。
【主要品目】
- 対日輸出…有機化合物、揮発油、魚介類、ダイヤモンド等
- 対日輸入…一般機械、電気機器、鉄鋼、銅等
旅行者の人数
インドからの日本への旅行者は、2019年は175,900人でした。訪日旅行者数は、2011年以降右肩上がりで伸びています。
訪日旅行者数は例年、3〜5月の春シーズンに多くなります。春に旅行者数が増加する要因として、インドと日本の気候の違いがあげられます。インドは雨季と乾季を繰り返す国で、気候の変化が大きいです。特にデリー周辺の地域は、寒暖差が激しくなります。
インドは日本の春のように、気候が安定している時期が少ないため、春に旅行者数が増えると考えられます。
政治的な関係性
インドと日本は頻繁に首相の相互訪問を行ない、友好を深めています。2014年に安倍元首相が訪印した際は、日印戦略的グローバル・パートナーシップの強化をし、同年モディ首相が訪日した際は、日印特別戦略的グローバル・パートナーシップのための東京宣言を発出しました。
安全保障の面でも両国は協力的で、軍事演習を合同で頻繁に行なうほどです。協定への署名も実施しており、2015年には防衛装備品・技術移転協定、情報保護協定への署名、2020年には物品役務相互提供協定への署名を実施しました。
経済面でも両国は友好的関係を築いており、日本はインドに対して多額の投資をしています。1958年には、電力設備やプラント設備に関する円借款を行い、2014年にはデリー高速輸送システム建設計画の円借款を、約14兆円行いました。
在インドの日本企業数、在留日本人数
2019年の在インドの日本企業数は1,454社で、拠点数は5,022箇所です。進出企業は製造業が多く、内訳は輸送用機械器具、化学工業、電気機械器具などです。
日本企業が特に多く進出している地域はハリヤナ州で、406社が進出しており、有名企業だとパナソニック、ユニチャームなどが進出しています。ハリヤナ州は国際空港に近い位置にあり、インフラが整っていることもあり、海外企業が進出しやすい街となっているのです。
在インドの企業数と在留邦人数は、2015年以降ともに増加傾向にあります。
2015年 | 2019年 | |
在インドの企業数 | 1,229 | 1,454 |
在留邦人数 | 8,655人 | 10,294人 |