英国のEU離脱に伴い、英国議会での批准手続きおよびEU理事会での承認を経て、2021年1月1日から欧州委員会と英国との自由貿易協定が暫定適用されています。これにより、英国に適用されていたEUの人、モノ、サービス、資本という4つの自由移動は終了しました。同協定の内容要旨について、以下簡単にまとめました。
この協定は、(1)自由貿易協定(FTA)(2)市民の安全確保のための新たなパートナーシップ(3)ガバナンスに関する水平的協定の3本柱で構成されています。FTAでは、物品とサービス貿易だけでなく、投資、競争、補助金、透明性、輸送、エネルギーと持続可能性、漁業、データ保護、社会保障などの幅広い分野が網羅されています。
英国は引き続き、EU内での90日以内のビザなし旅行、EUとの商品貿易における全品目での関税撤廃および関税割当ての設定なしを維持することになりました。
同協定の主なポイントは次の通りです。
1.関税ゼロ維持
EU英国間の輸出入取引では、2021年1月以降も引き続き関税ゼロが維持され、数量制限も課せられません。
しかしながら、EU加盟各国と英国は互いに第三国となるため、ドイツを含むEU加盟国と英国間の輸出入には通関手続きが新たに必要となります。また英国からドイツへの輸入には、ドイツの輸入付加価値税(VAT)が課税されます。
2.英国海域での漁業権
英国海域での漁業権は、年明けから5年半「移行期間」が設けられます。
この間、EU側の漁船はこれまで通り英国海域で操業できますが、EUが漁獲枠の25%を英国に返還することになっています。移行期間終了後は毎年協議を行うことになっています。
3.公平な競争ルール
EUと英国政府は、EUの企業が不利とならないよう「公平な競争条件」について双方で合意し、遵守できない場合は必要な措置が取られることになりました。
特に留意すべき点は、関税についてです。
関税ゼロが適用されるには、合意された原産地規則を満たすことが要件となっています。関税ゼロの対象製品は、原則として原産地がイギリスとEUに限定されているため、日本などから輸入した部品を多く使うと対象外となる可能性があります。
同協定における原産地規則では、品目別原産地規則(PSR)も明らかにされています。PSRの例外として、ツナ缶やアルミニウム製品の一部では別の基準を一定量まで認めており、電気自動車やその蓄電池なども、2027年1月まで3段階で基準を引き上げることになっています。詳細は同協定の原産地規則 (”Chapter 2 Rules of Origin”, P.27~)に掲載されていますので、参考情報にてご確認ください。
そのほか、上述しましたが英国からドイツへの輸入はすべて課税対象となり、輸入付加価値税(VAT)19%が適用されます。
ドイツが輸入品の経由国であってもドイツの輸入VATが生じますのでご注意ください。また、英国からの輸入品すべてとドイツからの1000ユーロ相当以上の輸出品は、通関手続きが義務となっています。
さらに、食品安全、工業製品規格に関する検査なども新たに課されます。EU域内で必要とされているCEマーキングについては、それに適合する独自のUKCAマーキング導入を英国政府が決定していますが、当面は経過措置としてCEマーキングが継続使用されますので注視すべきです。
同協定の暫定適用により、今後は、輸出通関手続きに伴う業務の煩雑化、輸出通関手続きの長期化、それに伴う輸送遅延や実務コストの増加が見込まれます。英国との輸出入に際しては、こうしたことを十分考慮することが必要です。
参考情報:
”英国とEUが通商・協力協定に合意、全品目で関税・割当ゼロを維持“ ( ジェトロ「ビジネス短信」添付資料 – 通商・協力協定の主な合意内容)
https://www.jetro.go.jp/view_interface.php?blockId=31207558
”GOV.UK – Brexit: new rules are here”(英国政府のウエブサイト – 適用される規定や必要事項などについて)
https://www.gov.uk/transition
”GOV.UK – Trade Tariff: look up commodity codes, duty and VAT rates”(英国政府のウエブサイト- 英国歳入関税庁(HMCR)により最新の関税やVAT率などが公表されている関税率検索データベース)
https://www.gov.uk/trade-tariff
”英EU通商・協力協定の原産地規則・原産地手続きに関する規定とポイント“ ( ジェトロ「ビジネス短信」添付資料)
https://www.jetro.go.jp/view_interface.php?blockId=31219872