前回に引き続き、「大湾区情報」では、日系企業の皆様に有用と考えられる最新情報をいくつかピックアップしお届けします。
2019年2月18日に正式に発表された「広東香港マカオ大湾区開発計画概要」(以下「概要」)では、大湾区を「世界に影響力を持つ国際科技イノベーションセンター」として発展させることを提案しています。
「概要」が発表されてからの2年間で、広東香港マカオ合同ラボの設立、国境を越えた財政テクノロジー研究資金の使用、中国本土外からの人材に対する所得税補助政策の導入、イノベーション科学研究協力モデルの開発等が実行されました。ボトルネックや制約を打破し、国際科技イノベーションセンター (International Innovation & Technology Hub)の建設が順調に進み、広州-深セン-香港-マカオの科技イノベーション回廊の形成が加速しています。
深セン・香港の科技イノベーション協力区
2020年8月7日、深セン・香港科技イノベーション協力区 (Shenzhen-Hong Kong Innovation and Technology Co-operation Zone)の建設について深セン当局が意見を発表し、合作区中の深セン園区では、制度革新と技術革新の両輪の発展を明確とし、香港および国際的において技術革新に最も有利な制度メカニズムをベンチマークとし、あらゆる面で技術革新に有利な政策環境構築を模索することを明記しました。
深セン・香港科技イノベーション協力区は、大湾区における科技イノベーションをテーマとする唯一のプラットフォームであり、香港に貢献し、国際的イノベーションセンターと包括的な国家科学センターを構築するという使命を背負っています。
香港スマートシティ建設に広東省のテクノパワーも
2019年8月、広東省科学院 (Guangdong Academy of Sciences) と香港機電工程署(EMSD)は、「イノベーション及びテクノロジーにおける香港広東省間協力に関する覚書」を締結し、双方が大湾区での人材とテクノロジーの相互統合において緊密に協力し、イノベーションとテクノロジーのプラットフォームと革新的な交流メカニズムを構築し、プロジェクトの着地と変革を促進することとなりました。
広東省科学院知能製造研究所技術事業部の黄丹部長によると、EMSDから委託された「移動式化宝炉(寺院、墓地等で紙のお供え物を燃やす炉)のAI制御システム」と「自立型蚊駆除ロボット」の研究開発プロジェクトが完了し、まもなくその成果が引き渡される予定となっています。
香港政府のイノベーションテクノロジー局(ITB)が最近発表した「香港スマートシティ長期計画2.0」によると、広東省科学院は関連の香港当局と協力し、香港のソーシャルセキュリティ、環境、製造の分野に向けて人工知能システムやロボット技術の開発、応用を進めていくとあります。
また、2019年9月15日、珠海市において「香山海洋科学技術港」(Xiangshan Marine Scientific & Technological Port)が完工し、同年末オープンしました。当拠点は、広東省、香港、マカオ、さらに中国国内の海洋無人システムや海洋インテリジェント機器の設計、研究開発、テストのための公共技術サービス及びイノベーションプラットフォームとなっており、スマート海洋産業のイノベーション拠点を形成しています。
クロスボーダー政策
広東省、香港、マカオでは制度が異なるため、イノベーション要素の流れを妨げる様々なボトルネックと制約が発生します。近年において、イノベーションへの障壁を打破するための一連の政策や施策が、国及び地方レベルまでにおいて導入されました。
2019年3月17日、財政部と国家税務総局は合同で「広東省、香港、マカオグレーターベイエリアにおける個人所得税に関する優遇政策に関する通知」を発表し、広東省、深セン市が大湾区地域で働く中国境外の高級人材や不足人材に対して、中国本土と香港の個人所得税の税負担の差に応じて、補助金を支給することが発表されました。
また、2019年8月に「科技イノベーションの促進を更に加速するための広州市の政策措置」の恩恵を受け、広州市は「南方海洋科学及び工程省実験室」を通じて香港科技大学(HKUST)に対して、香港支部の2019年建設ファンドと香港・マカオ科学研究オープンファンドを立ち上げ、広州市の科学研究資金のクロスボーダー配分を初めて成功させました。
その後2020年11月までに、香港・マカオへクロスボーダー配分された広東省全体の財政科技研究資金は累計1億人民元を超えています。
以下は大湾区の中国本土と香港・マカオとのクロスオーバー事業例となります。
実例1:新型コロナ肺炎対策
新型コロナウイルス肺炎の流行に直面し、テクノロジーの力は重要な支えとなっています。2019年末以降、広東省-香港-マカオ共同の実験室が次々と開設され、広東省のテクノロジーがコロナ感染防止対策のための重要な要素となっています。
その中で、「粤港澳呼吸系統伝染病連合実験室」は、関連医療機関との共同メカニズムを構築し、基礎医学と臨床診療を融合させ、テクノロジーの成果を感染防止対策の最前線に応用しています。また「粤港新発伝染病連合実験室」は、医療機関がサンプル収集と検査実施を支援し、流行の予防管理方法について指導を行いました。
共同実験室の開設により、香港・マカオの国際都市としての優位性、および広東省の、「改革開放」における政策試行地点としての優位性とが合わさり、イノベーション科学研究の新たな協力体制により、世界の科学技術のフロンティアを目指して、ハイレベルの新たな技術革新キャリアとプラットフォームが形成されます。
実例2:ネットワークコーディング技術
2000年に香港中文大学の科学者チームが発表した論文は、ネットワークコーディング理論の代表的な研究成果となりました。
今日、ビッグデータ時代において、ネットワークデータ転送のセキュリティはますます重要となっています。ネットワークデータセキュリティに着目したネットワークコーディング技術は、巨大なマーケットニーズが期待できる最先端技術になりました。従来のネットワークストレージは、卵を一つのカゴに入れるようなものでセキュリティが不安視されていましたが、ネットワークコーディングを使用することにより、データを同時に十数個のクラウドに保存することができ、そのセキュリティも大幅に強化されています。
マーケットの将来を見据えて、香港中文大学の教授レベルのベンチャーチームが2018年に「中大編碼有限公司(CU Coding Limited)」という会社を設立し、ネットワークコーディング理論をマーケットに応用する道を歩み始めました。その後、当チームは大湾区の深セン、仏山へとさらに進出しました。
中大編碼チームは、2020年7月に仏山中国科学院産業技術研究院のA級人材プログラムに選ばれ、2,000万人民元の起業助成金を受け同年10月に仏山市南海区にて新会社の登記を完了した、と創業者兼CEOであるウー・コクセン(吳國聲)氏は述べています。
ウー氏は、起業の過程において、かねてより大湾区の展望に大きな関心をよせており、大湾区の構築の助けを借りて、独自技術の香港から中国本土マーケットへの拡大を図りたいと望んでおり、仏山に拠点を開設後、中国科学院や現地仏山からの積極的なサポートを受け、優れたマッチングサービスを受けることができたと述べています。
また、「さらに重要なのは、仏山において、我々の事業立ち上げを応援する起業精神を感じることができたことです。仏山自身は比較的成熟した製造システムを擁しており、我々にとっては大きなサポートとなった。現在、香港での研究開発、深センでのデモンストレーション、仏山でのランディングという体制を整えることができた。」とも述べています。
現在、中大編碼の中国本土での事業は、拡大に向け順調に進んでおり、マルチクラウドストレージプラットフォーム構築に関連する契約をすでに受注しました。
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