ハーグ条約「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」 | 日本企業の海外進出支援サイト ヤッパン号


香港に関するコラム

ハーグ条約「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」

H.S. Planning (HK) Limitedでは、香港でのビジネスや生活に役立つ情報を毎月コラムとして提供しています。なお、当社は香港に拠点を置き、香港・中国・アジア進出を目指す日系企業様に対して、現地法人設立、会計・税務、監査取次、人事労務アドバイス、駐在者の生活相談までワンストップで支援をさせて頂いております。何かお困りごとがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。

香港の子どもたちも夏休みの季節になりました。香港の学校は新学年が9月から始まるので、6月末頃が学年末となり、夏休みは大体7月~8月の2ヶ月間です。香港にもお盆はありますが、旧暦の7月で、新暦では大体8月初め頃からの1か月ほど続き、日本のようなお盆休みはありません。そのため子どもがいる家庭では両親が休暇を取って家族で海外旅行をしたりします。ようやく海外と香港を自由に往来できる日常が戻ってきたので、学年の節目に移住や帰国など子どもを連れて海外に渡航する機会も増えるかと思います。海外に居住している16歳以下の子どもを持つ人なら是非知っておきたい「ハーグ条約」についておさらいしたいと思います。

ハーグ条約とは、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」のことです。近年、国際結婚が増加すると同時に、国際離婚も増えました。子どもがいる場合、離婚後に親のどちらか一方がもう一方の合意を得ずに勝手に国境を越えて子どもを連れ去ってしまうケースがあり、それによる子供への悪影響が問題となっていました。ハーグ条約は原則として子どもを元の居住国に戻すことを目的とし、条約が世間に広く知られることによる連れ去りの抑止、離婚後の親子の面会交流など、問題の早期解決のために国と国が協力するために定められた国際的ルールです。実際は国際離婚だけに限らず、日本人夫婦も対象となります。

ハーグ条約の締結国は今年1月現在103か国で、日本は2014年4月ようやくハーグ条約の締結国となりました。103か国の中で比較的多くの日本人が居住しているところを挙げると、香港、マカオ、韓国、シンガポール、タイ、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、アメリカ、イギリス、南アフリカ、などがあります。

「ハーグ条約」が効力を発するには子どもが元々住んでいた国と連れ去られた国の両方がハーグ条約の締約国である必要があります。台湾と中国本土はハーグ条約の締結国ではありませんが、香港・マカオは締結されています。そのため、両親が日本人と香港人で、母国に子どもを連れ去った場合は、ハーグ条約によって返還を求めることが可能です。しかし元々住んでいた国や連れ去られた先が台湾や中国本土だった場合、ハーグ条約は適用されませんので注意が必要です。

日本は2014年から締結国なので、それ以前はもし子どもを居住していた日本から連れ去られた場合、海外の裁判所にて自分で子どもの返還を訴えることしかできませんでした。また、連れ去る目的ではなく日本へ一時帰国する目的で日本人の親が海外の居住国から子どもを連れて出国しようとした場合、日本がハーグ条約の締結国ではない事を理由に渡航許可が出ず、一時帰国ができないといったケースもありました。

ハーグ条約では原則、子どもはもともと居住していた国に返還されることとなっています。それは親の離婚によって子どもが今の生活環境とは異なる国へ連れ去られ、慣れ親しんだ親族や知人友人と離れ、異なる文化、異なる言語の中に放り込まれることが子どもにとって不利益だとされているからです。なるべく子どもの生活環境を変えずに子どもを守ることが原則とされています。一般的な例を言うなら、香港で居住していた日本人・香港人の夫婦が離婚し、日本人の親が子どもを連れて日本に帰国した場合、もし香港人の親が子の返還を求めたとすれば、原則として子は香港に戻されることになります。ただし、もちろん例外として子どもを必ずしも返還する必要がないと裁判所が判断することもあります。その主な例として下記のような状況があります。

・連れ去りから1年以上が経過しており、子が新たな環境に適応している場合。

・返還の申請者が同意、事後黙認をしていた場合。

・元の居住国へ返還後に子どもへの虐待やDVによる危険がある場合。

・子ども自身が返還されることを拒否し、またその子の年齢や成長度合いから見てその意見が考慮されるべきと判断される場合。

また、ハーグ条約の観点から、例え連れ去るつもりがなくても、片親が子どもを連れて海外へ一時帰国などで渡航する際には気を付けることがあります。子どもを連れて出入国する際に、国によっては「渡航同意書」(もう一方の親が子連れの出入国に同意をしていることを示す文書)を求められることがあります。事前に裁判所に子どもを連れた出国の許可を求める必要がある国もあります。「渡航同意書」が必要な国は例えばアメリカ、カナダ、イギリス、イタリア、フィリピンなどがあり、書面の作成方法や必要となる年齢も国によって異なりますので、渡航前に最新の情報や作成方法をよく調べておきましょう。また、「渡航同意書」の提示が求められることがあるとはいえ、実際は担当者によって求められないこともあります。提示を求められた時のため、やはり準備をしておくと安心でしょう。また、未成年の子どもが単独で渡航する場合や、両親以外の成人と渡航する場合にも親の「渡航同意書」は必要です。子連れで海外へ渡航、日本へ帰国する場合は事前によく調べておきましょう。

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