世界一の人口と世界2位の経済力を誇る大国”中華人民共和国”。製造業の拠点として多くの日本企業も進出しています。
近年は国民の経済力も向上し、第三次産業が急成長。
また製造拠点としてではなく、深圳などイノベーション拠点としても注目されてます。
本記事ではそんな中国経済について、解説していきます。
中国経済の状況 ~第三次産業が急成長~
まず、中国の基本的な指標のデータを紹介します。
・一人当たりGDP額 1万276ドル(2019年)
・人口 約13億9300万人(2018年)
・面積 9,597,000 km²
・失業率 5.4%(2020年9月)
中国の2020年7ー9月期GDP成長率は+4.9%で、マーケットが期待していた+5.5%に及ばないものの、4ー6月期の+3.2%から伸ばしました。
コロナにより1-3月期で-6.8%と四半期初のマイナス成長まで落ち込んだ中国ですが、その後回復基調をみせています。
「世界経済の2020年の成長率はマイナス4.4%になると予想される」という状況の中、中国では権威主義的な統制によるマクロ・ミクロレベルでの感染封じ込め策や、積極的な財政出動政策が効果を発揮した形です。
GDPの推移:第三次産業の成長が顕著
世界銀行によると、中国は1991年から2018年に至るまでGDP成長率は+6%以上を維持しており、0未満~+2%を推移してきた日本より成長力があると言われてきました。特に1992年・2007年はGDP成長率が14%を超えています。これは高度経済成長時代の日本でも達成していない数値です。
この成長の背景には第三次産業の急成長が挙げられます。
一般的に国の成長は、まず農業や漁業などの第一次産業があり、そこに製造業や建設業などの第二次産業が生まれ、国家が発展してくるとサービス業や情報通信業などの第三次産業が成長します。
中国においては、1980年代後半から、第二次産業の地位が強固なものとなり、第三次産業の成長率が急速に上昇しました。1990年の第三次産業従事者の割合が18.5%だったのに対し、2009年には34.1%に成長しました。
引用:内閣府 経済社会総合研究所 http://www.esri.go.jp/jp/prj/int_prj/2010/prj2010_03_09.pdf
また外務省HPによると、2015年に第三次産業の割合が50%を超え、2019年は54%まで拡大とのこと。
これまで「世界の工場」と呼ばれてきた中国ですが、すでに新たなフェーズに移行していることがわかります。
今後の見通しは?
現状の中国経済はどのような動向かマクロ視点で見ていきましょう。
現在はピーク時よりも落ち着いた成長にシフトしていますが、官民が一体となって推進する一帯一路構想や、中国における巨大IT企業の「BATH」を中心に成長を続けるという見通しです。(BATHについては後述します。)
ただし、世界的な経済停滞により、中国も輸出にブレーキが掛かりつつあります。
またコロナ下での経済停滞を受けて、国民間で貯蓄を目指す動きが出ている他、「大食い」の禁止を国レベルで行うなど、日本でいう高度経済成長時代は終盤に差し掛かっていると言えます。環境問題や香港問題など様々な政策面の課題を抱える中国がどう進化するか、注視すべき時期です。
中国経済の特徴、近年のトピック ~コロナの影響、注目政策~
ここからは、今回の落ち着きが安定期への移行であるか、あるいは成長の踊り場であるかを、近年のトピックを挙げながら分析します。
コロナの影響とその対応について
外務省の報告では、コロナ対策として中国政府は国民に対し厳しい規制を行い、経済面でも数多くの制限を行いました。
以下に引用します。
「中国政府は,1月下旬から,団体旅行取扱禁止,観光地や映画館等の営業停止,国内移動の制限等を実施。企業も生産活動を停止。中国経済は春節(1/25)からほぼ2ヶ月停滞し,1~3月期実質GDP成長率が6.8%減と、1992年以降初のマイナス成長となり、経済へ深刻な影響を与えた。(1~3月の投資,生産,消費は大幅に減速し,いずれも四半期では初のマイナス」
引用:外務省「最近の中国経済と日中経済関係」https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000007735.pdf
この政策が功を奏し、経済の回復ペースは想定より早いとされています。
日本総研の分析によると、輸出は前年比プラスで、マスク、情報通信機器などを中心に需要が拡大。「マスク外交」と呼ばれました。
また2020年3月に政府が不動産価格抑制と金利引下げを行ったことで不動産マーケットを中心に活発な資金の流入が発生しました。
内需では中国政府が国民向けに自動車の購入補助金を支給するようになったことで、自動車の売り上げが急回復しています。後述しますが、中国における自動車製造業の発展は目覚ましいものがあります。
一帯一路構想とは?
一帯一路構想は2013年ごろから中国の推進する世界的な巨大経済圏の構想です。アジアからユーラシア大陸を経て、アフリカ東岸、ヨーロッパを結ぶ経済圏で、2019年3月では「一帯一路」共同構築に関与する国が125カ国に達しています。
もともとは1979年に導入された経済特区の試みを皮切りに製造業が発達した中国において、あふれようとしていた内需を諸外国へと向けさせる狙いがあったと言われています。
特に輸出された産業は、港湾や鉄道などのインフラです。中国資本がこれらを整備することで、関係国に強い影響力を発揮する見通しです。
双循環とは?
一帯一路構想から発展した政策として、「双循環」政策があります。
2020年7月に習近平国家主席が発表したもので、中国内部の循環(消費の拡大)を行いながら、外部との循環(資源国や新興国との関係強化)を進める政策と考えられています。
内需拡大が雇用・生活の安定を生み、持続的な経済発展を実現できます。また、新興国と関係を強化することでサプライチェーンの強化と輸出増加が実現する見通しです。
参考:日本総研「中国の新発展モデル「双循環」とは何か」https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=37533
米中貿易摩擦
一方で「チャイナリスク」と呼ばれる中国のカントリーリスクが懸念されています。例えば経済格差やチベット問題、環境問題があります。
また近年大きく取り上げられた問題として「米中貿易摩擦」があり、これは資本主義の米国と権威主義の中国が対立し、互いに輸出品に高い関税を掛け、生産部門に打撃を与えようとするものでした。
今後、両国関係が破綻し、米国主導の経済圏と中国主導の経済圏に世界が二分され、再び冷戦の時代がやってくることが大きく懸念されています。
一方で、米国大統領の座をドナルド・トランプ氏からジョー・バイデン氏に譲り渡す流れとなっており、今後の改善の動きを期待する声もあります。
現在中国が注力している産業とは?
中国が2015年に発表した政策「中国製造2025」では、中国が2014年までに製造大国のトップとなるためのグループを結成するなど、国を挙げて産業に投資する方針が打ち出されています。特に重点的に力を入れる産業として挙げられるのが、以下の10種です。
② 先端デジタル制御工作機械とロボット
③ 航空・宇宙設備
④ 海洋建設機械・ハイテク船舶
⑤ 先進軌道交通設備
⑥ 省エネ・新エネルギー自動車
⑦ 電力設備
⑧ 農薬用機械設備
⑨ 新材料
⑩ バイオ医薬・高性能医療器械
参考:「中国製造 2025」の公布に関する国務院の通知の全訳https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2015/FU/CN20150725.pdf
今回はこの中から、主に経済特区で躍進の目立つ「次世代情報通信技術(IT産業)」「省エネ・新エネルギー自動車」「半導体産業」をピックアップして、現時点での中国国内の動きを紹介します。
①IT産業
>産業概要
中国におけるIT産業は経済特区の深圳からスタートしたと言っても過言では有りません。中国のIT産業規模は1兆1,466億元(18兆4060億円)と言われています。また利益は合計1.9兆円に達します。
中国のIT産業を強力に牽引する存在として「BATH」があります。これは米国GAFAと同様、大手IT企業の頭文字をとったもので、
A…アリババ(Alibaba)
T…テンセント(Tencent)
H…ファーウェイ(Huawei)
の4社のことを指します。
現在は日本国内でも最新のニュース記事が毎日更新されるほど注目が集まっています。
バイドゥは検索エンジン、アリババはECやその周辺ビジネス、テンセントはSNSやゲーム事業、ファーウェイはスマホや5Gなどを強みに成長を続けているのが現状です。
要因は、経済特区に指定されている深圳という地の利を活かし、国外の資本や技術の導入をしたこと、またBATHが先んじて独自サービスの提供を始めたという先進性が挙げられます。
その規模は「BATH」だけでも、2018年度の総売上が24兆円を超え、利益は3.8兆円に至ります。GAFAにはまだ及ばないものの、コロナをいち早く脱したことで、米国との差を縮めています。
>産業規模
IT製造業含めたIT産業全体の市場規模が252.8億ドル、うちIT産業の103.9億ドル。また、2019年から2024年までの年間成長率は10.2%に達する見通しです。
調査会社Technavioのアナリストは、IT産業の伸びの要因にECの発展を挙げています。
中国における2014年から2019年までのEC支出額は、年間平均20.73%の成長を見せており、これはITサービスの増加と、それに伴うネットユーザーの増加が背景にあると分析しています。
まだまだ貧富の差があると言われる中国。今後も経済格差が是正されればネットユーザーが増え、IT産業も発展しそうです。
②省エネ・新エネルギー自動車
>産業概要
中国における自動車販売はコロナを経てV字回復していると言われます。乗用車の販売はもちろん、コロナ中の輸送需要、コロナ後の建築需要などでトラックを始めとした商用車の販売が盛んに行われています。
また、最新の省エネ・新エネ車販売が全世界と比較して活発に行われています。
>産業規模
2019年、世界で約1億台の自動車が販売された中で、中国はそのうちの4分の1にあたる2577万台を売ったと、国際自動車工業連合会は発表しています。
主な中国の自動車メーカーとして広州汽車集団や第一汽車、上海汽車が挙げられます。また外資系の自動車メーカーは単独で中国進出することができず、すべて中国企業との合弁企業という形態で進出しています。
例えば「一汽トヨタ」「広州本田」など社名にあらわれる企業のほか、東風汽車は日産と東風汽車の合弁です。
また、新エネ車(電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車)の販売で先行しており、2019年に世界全体で販売された新エネ車210万台のうち半数を占めるのが中国です。
新エネ車に投資を強化する狙いは、国際的な優位性の確保と見られています。
ガソリン車は日米欧の先進国と中国との技術格差があるため、中国は次世代型自動車である電気自動車の研究を進め技術を向上することで、世界に対する「自動車強国」として優位に立つ可能性があります。
そのため、中国政府は国民に対し購入補助金を2022年まで拠出。普及台数を増やし、今後世界市場への進出にも意欲を見せます。
③半導体産業
>産業概要
半導体とは、電子機器の脳に当たる部品のことを指します。PCやスマホに使用されるプロセッサーやメモリ、そしてこれらが一体となった「SoC」などに使用され、半導体集積回路とも呼ばれます。
中国はこの半導体産業において、外資系企業との提携を強化し、日本からも三菱電機や富士通などが提携や協力を行っています。
>産業規模
世界の半導体市場の規模は、2020年の時点で4,331億ドル(約45兆円)に達したとされています。そのなかで台湾がシェア1位で21.6%、続いて韓国(20.9%)日本(16%)が続きます。中国は現状4番手で、そのシェア率は13.9%です。
そして、今後の中国での半導体産業は大きく伸びる予想で、2020年に日本、2022年に韓国を抜き、台湾に次ぐ2位になるという見通しがあります。
先述のITや、新エネ車、またその他の中国が重点的に強化を図る産業に「半導体」は必須アイテムとなる見通しです。実際、これまでPCやスマホに搭載されてきたプロセッサーやメモリなどが、すでに自動車やドローンなどにも搭載されています。
中国はそうした半導体の必要性に目をつけ、投資を強化していると言えます。
中国と日本の関係性
双方の貿易額とその推移
中国にとっての日本を見ていきましょう。
中国が日本に対して行う貿易額は米国に次ぐ2番手で、ジェトロによると2019年の日本から中国に向けた輸出は1715億ドル(17.8億円)、中国から日本に向けた輸出は1692億ドル(17.5億円)でした。
過去10年、増減を繰り返しながら、総額3000億ドル台を推移しています。主な中国の港湾都市として、大連や青島、深センや広州があります。
また、日本への直接投資額は4.7億ドルです。これはシンガポール・韓国・英国に続く4番目の投資額です。
日本にとっての中国は、現状最大の輸出相手国で、直接投資額は38.1億ドルです。
コロナ前までは訪日観光客のなかでシェア3割と、日本にとって輸出・投資・インバウンドなど多方面でお得意様であったことがわかります。
どのような製品の貿易が多いのか
2020年時点での中国の世界に向けた主要輸出品目は「コンピュータ」「携帯電話」「繊維玩具類」です。
特にコンピュータはコロナ下でテレワークを推進する機運が高まったことで、大きな伸びを記録しました。中国の対日貿易では、通信機、衣類、電算機類を中心に輸出。
また日本からは電子部品、科学光学器、プラスチックを輸入しています。
旅行者の人数
中国からの訪日人数は、2008年に100万人の大台に乗った後、年々増加。2012年には「爆買い」と呼ばれる現象が全国各地で見られ、2019年に観光と商用を合わせて954万人まで増加しました。
そのうち観光目的が約857万人、ビジネス目的が37万3404人、その他の目的が64万5490人でした。
しかし、2020年のコロナショックで中国人の来日は4月以降ほぼゼロに。
5月に訪日人数が25人と底を打った後、日本政府が受け入れを再開したことから11月には18100人まで増えましたが、2020年12月末から始まった「第三波」により再び緊急事態宣言が発令。
かつてのような年間1000万人近くの中国人が日本を訪れる光景の再来は、2021年初頭時点ではまだ遠そうです。
なお、中国への日本人訪問者数はここ数年、260万人台を推移していました。
政治的な関係性は「懸念」が積もる
日本と中国の関係は数千年に渡る歴史がありますが、現時点での関係性は良い面も悪い面もあります。
特に先述の貿易や観光など、中国がお得意様であり、欠かせないパートナーである一方、尖閣諸島問題が解決されず、香港問題に対しても日本は「重大な懸念」という言葉を使って批判的な態度を見せています。
中国大使に着任した垂秀夫氏は「日中間には様々な懸念や立場の違いがある」「中国が必ずしも国際的なスタンダードで動いていない」など一定の警戒を示す発言をするなど、快晴とは言えません。習近平国家主席の来日が延期される中で、日中が協調できるか対立するか、この先の展望は不明瞭です。
在中国の日本企業数は増減続く、日本人数は減少
また、中国にある日系企業の拠点は3万3050拠点(2018年10月時点)。2007年に2万9199拠点で、リーマン後に3000拠点ほど増加、現在は横ばいながら日系企業が拠点をおいている外国の中で中国はダントツのトップとなっています(2位米国、8606拠点@2017年)
また在中日本人は2012年の15万人をピークに減少中。
2019年は11万6000人となっていました。2012年夏には中国各地で反日デモが行われた時期であり、両国の関係が冷え込んだことが一因であると考えられます。