▼御社の9割以上がローカルの社員の方々との事ですが、会社としての文化や価値観を伝えるうえで、難しい点はありますか?
アジアの中でもシンガポールと香港に共通している点は欧米志向が強いという点です。
そのため、「そもそも日本企業が優れているのか?」というマインドを持っている人も多いです。
日系のマルチナショナル製造業さんなど、確固たる技術があり、文化や価値観を世界的に発信している場合はもちろん別ですが、私たちのような金融機関は目に見えないサービスを提供しています。また、シンガポールにおいては最大手という訳ではございません。
その中で、大手欧米企業と比較されながらも、文化や価値観を伝えていくことは容易ではありません。
逆に私が赴任していたインドネシアでは日本企業というブランドが確立していました。
赴任当初、「現地企業としてインドネシアに根を張ってやります」とローカライズに力を入れるような発言していたところ、止められたことがあります。
「日本企業だからみんな好きなんだ」と日本の文化や価値観が非常に受け入れられていました。
▼中里様のこれまでのご経歴についてお聞かせください。
前職も含め、香港・インドネシア・シンガポールと、計24年ほどずっとアジアで仕事をしています。担当者から代表まで、様々な地域で幅広い役職を担ってきました。
アジアでの仕事はチャレンジングで非常に面白いですね。
それぞれの国ごとに文化や価値観だけでなく、経済の発展度合いも違います。カルチャーショックもありながら、刺激的な日々を過ごせています。
▼3か国でのご経験から、それぞれの国のスタッフの特徴などを教えてください。
私が赴任した当時の香港は、とても向上心と野心に溢れていました。一生懸命働いて、一生懸命稼ぐ。「自分がこの会社を大きくしてのし上がっていく」というスタッフが多かったです。
ただ、会社へのロイヤリティ(忠誠心)は高くなかったです。
会社とスタッフのベクトルが合致した場合は、非常に頼もしかったですが、ベクトルが合わない場合は退職してしまうスタッフも多かったですね。
インドネシアは仕事とプライベートを分けない気質でした。環境に馴染んでしまえば居心地が良いと思います。
友人を作るには最高の環境ですが、一緒に仕事をするとなると大変です。
そもそも時間軸が日本人とは全く違います。こちらが3日でやる仕事に2か月かかった経験もあるほどです。
シンガポールはとても成熟した環境だと感じています。
スタッフは予想以上にプロフェッショナルな意識があります。頭が下がるような時もありますし、もう少し向上心を持って欲しいなと思う時もあります。
もしかしたらそういった出世意欲や向上心が高い人材はジョブホッピングを繰り返し、業界最大手にいるのかも知れませんね。
▼24年間の海外での就業経験から、採用・育成においての注意点などはありますか?
まずは、「ジョブディスクリプション(職務記述書)を明確にする」ことです。
日本での就業ではあまり話題にならないかも知れませんが、海外では採用のタイミングで、その人が担当する職務を明確に設定しなければなりません。
その線引きが曖昧なまま業務を依頼していると、現地スタッフだけでなく、日本人の現地採用のスタッフにも指摘を受けたことがあります。
採用時に設定した職務以外の仕事をしてもらうことは、結果的に社員の不満につながってしまう可能性があるため要注意です。
また、「社内でのキャリアプランや身につくスキルを伝える」ことも大切です。
“入社後3年で昇格した人がいる”などという、実際の事例を伝えることも有効です。
アジアでは同業界をジョブホッピングしていくケースが多いですが、自社内でのキャリアプランを伝えておくことは、社員に取ってのモチベーションにもつながりますので。
▼マネジメントをされる上で大切にされていることは何でしょうか?
シンプルなことですが「公平に扱うこと」です。
給与やオポチュニティを含めて、公平に与えることが必要です。本人へのフォローアップだけでなく、周囲に対してなぜそうなっているのかをきちんと説明する必要があります。
ここを不透明にした場合、社員の不平不満がつのり、モチベーションの低下や最悪の場合、退職する社員も出てきてしまいます。
▼最後に、今後の展開について教えてください。
会社としては、よりローカルに根付いた経営を行い、売上・収益の拡大を目指します。
そのために、ローカルスタッフに気持ちよく働いてもらうために私個人として何ができるのかという事を考えていきたいです。
私自身、アジアでの生活が長くなってきています。まず私から自己啓発をし続ける存在でありたいですね。
日本でクラウド勤怠管理システム「キングオブタイム」を開発し、国内シェア トップクラスを獲得したメンバーが、その海外展開として東南アジアへ進出。徐々に人事管理が浸透してきている東南アジアでも勤怠管理システムや人事管理システムを提供し、ローカル企業のクライアントも多数。 |