インドネシアの首都ジャカルタ特別州のアニス知事は新型コロナウィルス感染拡大を防止するため2020年3月20日に災害緊急対応のフェーズを宣言し、企業の事務所活動の一時停止と在宅勤務が呼びかけました。さらに、4月10日にはプトラント保健大臣が大規模社会的制限の実施を認める大臣令第7号を出したことを受け、ジャカルタ州知事規定が公布され、企業の在宅勤務が義務化されている状況となっています。今回は税務関連を中心に関連事項を以下にお伝えさせていただきます。
税務関連
新型コロナウィルス対策として、現在(2020年4月22日)までに公表されている税制優遇措置および行政手続きに関連する対応は以下の通りです。
【税制優遇措置】 2020年財務大臣令第23号 (“PMK23”)または法律代行政令(“PERPPU No.1”)
1. PPH21(従業員給与にかかる源泉税)の免除 |
会社の事業分類コード(KLU)が主に製造業の企業(PMK23にて対象確認のこと)、または輸入便宜(KITE)を保有する企業に勤務する「年間所得2億ルピア以下の従業員」についてPPH21の支払が免除され、代わりに同額を該当従業員に支給。 |
2. PPH22(輸入等に関する前払法人税)の輸入時の不徴収 |
会社のKLUがPMK23に記載されている特定の19事業分野の企業またはKITEを保有する企業を対象にPPH22を不徴収。 対象期間:2020年4月~2020年9月 |
3. PPH25(法人税の予納)の減免 |
上記2. の企業を対象にPPH25の要納税額の30%を減免。 |
4. VAT暫定還付手続きの迅速化 |
上記2. の企業を対象にVAT還付額50億ルピアを上限として暫定還付申請が可能。 |
5. 法人所得税率の引き下げ |
2020年度および2021年度… 法人所得税率 22%2022年度以降… 法人所得税率 20% |
【税務行政手続き関連対応措置】 PERPPU No.1または2020年租税総局長SP-16号
1. 2019年度の個人確定申告の納税/申告期日の延長 |
2020年4月30日まで罰金なしで延長が可能。 その後申告期限は仮申請を行うことで6月30日まで延長。 |
2. 2019年度年次法人税申告書の提出期限の延長 |
仮申請を行うことで最終提出期限は6月30日まで延長。 なお、納税期限の猶予はなし。 |
3. 2020年2月度の月次税務申告書の提出期限の延長 |
2020年4月30日まで罰金なしに延長が可能。 |
4. 税務署の閉鎖 |
2020年3月16日から全国の税務署が閉鎖。 |
5. 税務当局への異議申立(keberatan)期限の延長 |
・税務調査結果に不服の場合の異議申立の期限は3ヶ月延長されて最大6ヶ月以内。 |
6. NPWP(納税番号)およびE-fin登録のメール申請の受付 |
E-fin登録は所轄税務署への本人出頭を求められるが、臨時的に所轄税務署指定のメールアドレスより申請可能。 |
インドネシアでは不効率な税務行政分野の手続きの効率化を目的に近年オンライン化を進めています。その流れとはやや異なりますが当局が積極的にオンライン化に取り組んでいる思われる事例として、現在行政の活動も制限されていて対面の税務調査が実施できないことからemail等での書類の受け渡し、さらには当局との税務調査関連の面談についてオンラインで実施されることで税務調査に必要な一連の手続きが完結しています。対面による税務調査に劣らぬレベルの税務調査対応がされている状況をみると徴税に対する熱心な取り組みはコロナの環境下でも待った無しに行われる状況ですので油断は禁物です。
納税や税務申告期限は延長されてはいますが、納税や申告が遅延することで税務行政に対する備えが甘い会社なのではないかとみられる可能性がありますので、できるだけ平時と同様の対応を心掛けていただくことが肝要と思います。
本件についての更なる詳細は、朝日ネットワークスインドネシアのHPにて随時情報公開していますのでご参照ください。
https://www.asahinetworks.com/indonesia/topics
また実務に際しての具体的な税務対応については個別にご相談ください。
その他
インドネシア経済は90年代後半の通貨危機やリーマンショックの際も、懸念されたほど大きな痛手は受けずに比較的順調に成長し、昨年は一人当たりGDPは4,000ドル台となりました。
しかしながら、COVID-19禍により直近の新聞報道でも貧困層が最大850万人増え、3324万人(貧困率は12.37%)で2011年と同水準に達する可能性があると伝えられています。貧困層の生活困窮による治安の悪化が懸念されています。事態が長期化すると、人々は頑張ることを放棄し暴動などに発展してしまう可能性が危惧されます。 そうした状況の変化を汲んでか、非営利団体や宗教団体などが食べ物など生活必需品の喜捨を貧困層に始めていますので、このような施しが治安の悪化に少しでも歯止めがかかることを祈るばかりです。
他方、こういった分野に対するインドネシア行政の対応は非常に遅く、現時点ではジャカルタ州がスンバコ(生活必需品)の配布を実施している程度で、事業者に対する給付金制度などの目立った有効策は発表されていません。
なお、本稿は執筆時点(2020年4月22日時点)の情報に基づいて作成していますが、今後更新される可能性もありますので、弊社ホームページを適時ご確認ください。