―海外における御社の事業内容についてお聞かせください
大和証券シンガポールは、DBS銀行がまだ国営でシンガポール開発銀行だった1972年に、「DBS大和」という合弁会社としてスタートしました。当時シンガポールの金融市場は未整備でしたので、人材とノウハウを集めたいというシンガポール政府の要請で、日系・欧米系あわせて5社が合弁会社として誕生しました。
日本が高度成長期だった当時は、日本の株式をシンガポールやその周辺国へ販売していくことから始め、80年代はシンガポール政府投資公社との株式や債券の取引や、シンガポール航空やシンガポールポストなどの国営企業の民営化のご支援、またローカル企業の上場のご支援など、金融市場の成長に合わせて事業を拡大してきました。2000年代は企業買収や合併のご支援も増え、2006年頃から日本から移住された富裕層のウェルスマネジメントにも取り組んできました。
現在は、株式の取次、債券の売買、M&Aや上場のご支援、ウェルスマネジメントの4つの事業を、約130名の社員で運営しており、うち、日本人駐在員は約30名です。スタッフの半分以上はシンガポール人で、その他はイギリス、オーストラリア、中国、韓国等出身のスタッフがおります。
―日本とシンガポールで業界のトレンドに違いはありますか
最も事業拡大を進めているウェルスマネジメント事業においては、シンガポールは大変特徴的な国だと感じています。この小さな国で、日本人が住んでいるエリアはある程度限られており、特に富裕層は特定エリアに集中しています。これは非常に特殊な地域と言えるでしょう。またお客様同士のネットワークが強いので、情報が回りやすく、おかげさまで既存のお客様の紹介なども増えております。
別の言い方をすれば
、一度信頼関係が崩れてしまったら、ビジネスが立ち行かない地域だとも言えますので、お客様からの信頼をいかに高めていくか、いかにコミュニケーションを密にして丁寧に情報提供をしていくか、ということを常に意識しています。
評価における公平性・透明性を高める
―御社における人材マネジメント/人材育成の取り組みについてお聞かせください
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大和証券という会社のカルチャーに合う人かどうか” を重要な基準として採用しています。優秀かどうかだけではなく、カルチャーに馴染めるかどうか、会社の方針に賛同しながら仕事をしていけるかを見極めることが、不祥事などのトラブルの芽を摘むことにも繋がると考えるからです。また、シンガポールでは多くの方がキャリアチェンジをすることでキャリアアップしていくため、必然的に優秀な社員ほど勤務年数が短く、平均して3~5年となります。人の入れ替えが多い環境で会社のカルチャーを維持するためにも、採用時の見極めが大変重要と我々は考えています。
弊社グループでは、「ダイワスピリット」として心がけや経営方針などを文章化して、各社員が理解できるようにしています。会社はどういうポリシーやスタンスで、どこにどう向かっていきたいのか、目標や指針を具体的かつ明確に示してあげることが重要だと考えます。さらに、お客様を第一に考える姿勢を強化・浸透させるための取組みとして、定期的に「CQ1(Client 1st,Quality No.1)会議」と題して、お客様のための施策、改善案を皆で検討・実施し、改善した事例について、海外拠点を含むグループ全体で共有しています。
人事評価制度は、駐在員は日本の評価制度を使用、ローカル社員に対しては、個別に入社時に設定した役割や、毎期セクションごとで設定したKPI(Key Performance Indicator)をクリアできれば、評価に反映される仕組みとしています。KPIはセクションヘッドが毎月レビュー、3か月ごとに私もレビューをして、最終的なボーナス、来年度の年俸を決定しています。コミュニケーションを深めて、評価における透明性・公平性を高めることに力を入れております。
シンガポールは人材の流動性が高く、同じ金融業界から転職してくるスタッフも多くおります。入社後に「こんなはずじゃなかった」とギャップを感じてすぐに辞めてしまうことが無いように、入社前に評価観点についても丁寧に説明しています。数字だけで評価するのではなく、会社にどのような形で貢献したか、といった定性的な観点の評価についても理解してもらえるよう伝えています。個人としてのやりがいや満足度を高めることもモチベーションにつなげて欲しいという思いもあります。
―これまでの経歴、マネジメントをされる上で大切にされている事などお聞かせください
大学卒業後、93年に入社し、最初の3年は成城学園にある支店に営業として勤務し、その後、機会を頂き1年半ほどアメリカコロラド州に留学。97年に帰国後は、債券部に入り、日本国債、アメリカ国債などを売買する業務や、海外のお客様に債券を販売する業務に従事していました。2003年から債券営業担当として5年弱シンガポールに駐在。2007年、大和SMBCの社長秘書として1年半東京に戻り、2009年から3年半ロンドン駐在。もう一度東京に戻った後、2015年にシンガポール拠点長に就任しました。
シンガポールで周辺国の営業をしていた際には、東南アジアの国々にとって日本の印象はとても良く、みな好意的でした。しかし、ロンドンではそうはいかず、スタッフとぶつかることもありながらも、多くのことを学びました。ロンドンでは課長職としてマネジメントを経験しましたが、日本人にありがちな曖昧な目標設定やあうんの呼吸では、通用しませんでした。さらにはイギリス人に対しては、互いに尊敬の念をもって接しなければいけません。お互いを理解し合うためにコミュニケーションを重ねるように努めました。
シンガポール拠点においても、外国人社員に対して、日本人と同じように「言わなくてもわかってくれる。察して動いてくれる」と曖昧に目標設定をしてしまい、ボーナス時の評価で不満が爆発してしまったという苦い経験もあります。そのような経験から、具体的、かつ明確な目標設定を行い、お互いの認識がきちんと合うように透明性をもって説明することが、マネジメントとして重要と感じています。
仕事に対する考えだけでなく、個人としての生き方や考え方なども知るために、食事会や、ボーリング大会、クリスマスディナーなど、仕事以外でもなるべくコミュニケーションをとるようにしています。海外店では日本以上に多様な価値観を持つスタッフが集まっているため、意識して場を用意し、チームビルディング、ロイヤリティを上げていくことが、事故やトラブルを少なくし、もしそれが起こってしまったときの報告を早くするなどに繋がると考えています。
「相手のことを知る」ことは非常に重要です。それができないとお客様との間でも信頼関係を構築することはできません。
―今後のビジョン/展開についてお聞かせください
証券業界をとりまく環境は年々厳しさを増しており、また競争も激しいため、既存事業だけでなく新規事業にも力を入れていきたいと考えております。例えばアジアではまだまだインフラへのニーズが非常に旺盛であったり、マイクロファイナンスやスタートアップ等への投資機会も数多く存在したりします。今後弊社がファンドを立ち上げて、日本の余剰資金と繋ぐ役割をするなど、幅広いチャンスを模索していきたいと考えています。さらに、大和シンガポールはマーチャントバンクの免許を保持しており、お客様への融資も可能なので、融資残高を一段と拡大して、お客様へのサービス拡大に努めて参ります。
私自身、今後もお客様との信頼関係や社員とのコミュニケーションを大事にし、みなで同じ目標を立てて同じ方向に進んでいく一体感をもち、働いていて楽しい職場作りを目指す、そういったマネジメントをさらに広げていきたいと思っております。また、日本に対して好意的なアセアンの人たちと日本を繋げたり、アセアン同士の人々を繋げたりすることに携わっていきたいと考えています。
日本でクラウド勤怠管理システム「キングオブタイム」を開発し、国内シェア トップクラスを獲得したメンバーが、その海外展開として東南アジアへ進出。徐々に人事管理が浸透してきている東南アジアでも勤怠管理システムや人事管理システムを提供し、ローカル企業のクライアントも多数。 |