インド版マイナンバー制度 アーダール(Aadhaar)番号
インド版マイナンバー制度であるアーダール(Aadhaar)番号の取得に、インド駐在の日本人も振り回されている。
そもそも、アーダール番号の主目的は政府補助金を国民に支払う際の管理番号であり、文字の読み書きができない人々でも識別できるように、虹彩や指紋といった生体認証情報も含んでいる。ところが、インド政府はアーダール番号を、個人を認証する ID としてより幅広い目的で利用しようと考え、特に、全ての銀行口座と携帯電話番号には必ずアーダール番号をリンクさせなければならないと決めた。こうした政府の動きについては、プライバシー権との関係での問題点や情報管理上の不安が多く指摘されており、既に裁判でも争われている。
アーダール番号は外国人でも取得「できる」とされており、法律上は義務ではないはずだが、上記のとおり銀行口座や携帯電話番号とのリンクが必須という運用になってしまったため、インドで生活をする日本人駐在員も、日常生活を送るためにはアーダール番号を取得せざるを得ない状況になっている。しかし、このアーダール番号の取得というのが、人によってはスムーズに申請できる場合もあるのだが、私の場合は、大いにインド的展開かつ険しい道のりの手続となってしまった。
まず、おそらく他の日本人駐在員と同様、私としては生体情報をインド政府に召し上げられるということに気が進まず、また、銀行と携帯番号のリンクについても外国人はそのうちに適用除外になるだろうという楽観的な考えもあって、しばらくはただ傍観していた。しかし、昨年 11 月下旬に在インド日本大使館が、「12月末までの銀行口座へのアーダール番号のリンクが求められているため、アーダール番号の申請を早く行うことを勧める」という旨のメールを在留邦人に発出したため、ここにいたって私も諦め、アーダール番号の取得に動き始めた。
アーダール番号はアーダールセンターというところで申請し、生体認証情報を採取して登録する。アーダールセンターは役所や銀行店舗の中に設置されており、アーダール担当の役所である固有識 別番号庁 (UIDAI) のウェブページで開設しているセンターを調べることができる。
・1日目
まず、事前準備として、朝の出勤前に立ち寄るため、前の日に、自宅最寄のアーダールセンターのある銀行を探した。
・2日目
朝、その銀行に入り、アーダール申請の旨を伝えると、「まだシステムがセットアップできていない。」との回答。「いや UIDAI のウェブページを見てきたんだが・・・」と反論するも、「あと数日でオープンします。」とのこと。
仕方ないのでまたウェブで調べて別のセンターに行ってみる。すると、「アーダール担当者が長期休暇に入ってしまったので受付できません。」と、また追い返される。
これまた仕方ないので、またウェブで調べて別のセンターに行ってみる。すると、10 名ほどが既に並んでおり、少なくともセンターが開いていることが分かった。ところが、窓口に行くと、「アーダール担当者がまだ来ていないのでしばらく待ってください。」ということで、受付番号をもらって待つことに。1 時間ほどして再び窓口に戻ってみると、「今日はアーダール担当者が来ないことになりました。また明日来てください。」とのこと。
この日はもう諦めることとした。
・3日目
翌朝、言われたようにアーダールセンターに戻ると、すでに行列ができていた。受付番号をもらうも 20 番目だったため、「これは当分順番は回ってこないぞ。」と判断し、一旦職場に行き、昼過ぎにセンターに戻ってみた。すると、今度は「今日はシステムがダウンしてしまってもう申請ができなくなってしまいました、また来てください。」とのこと。
「これは久々に濃いインド的展開になってきたな。」と思うと同時に、正攻法では時間がかかって埒が明かないと判断。そこで、インド人の知人に頼んで代わりに受付などの手引きをしてもらおうと考えて早速電話すると、「デリーのセンターであればやったことがあるのでそこにしましょう。」と提案される。私はグルガオン在住だが、ちょうど翌日デリーに行く用事があったので、そのセンターに行くことにした。
・4日目
果たして翌日、デリーでの用事を済ませてインド人知人に電話してみると、「行こうとしていたセンターが閉鎖になってしまった。」とのこと。
これは、いよいよインドの神様に嫌われてしまったか。
・5日目
翌朝、最初に行ったセンターのシステムがセットアップされたことを祈り、行ってみる。すると、「こちらでお待ちください。」とソファーを勧められ、俄然期待が高まる。
ところが、銀行の担当者らしき人物が、「あなたは外国人駐在員ですよね。外国人は銀行口座にアーダール番号は不要だと思います。」と元も子もないことを言ってくる。「いや、日本国大使館がアーダール取得を勧めているのです。」と返事をすると、「そうですか。確認します。」といって戻っていった。数分でその担当者が来て、「このセンターのアーダール担当者は外国人の登録手続をしたことがないので、念のためムンバイの本部に問い合わせて手続を確認して連絡するので、また来てください。」と言う。これまでの経緯を思い返し、ここで引き下がれないという思いで、「いや外国人の手続が違うという話は聞いたことがなく同じはずなので、今日ここで手続する。」と反論すると、
「そう仰っても、もし手違いがあってまた来て頂くことになるのは申し訳ないので確認してからにしてください。」との回答。
私の心はポッキリと折れてしまい、「では確認して連絡をください」と力なく言い残し、センターを後にした。
アーダール番号の取得を決意してから、既に5日が経過していた・・・(つづく)
本記事の執筆者

太陽グラントソントン
花輪大資(はなわだいすけ)
公認会計士(日本)
2013年に、太陽有限責任監査法人よりグラントソントン・インディアに出向し、ジャパンデスクを担当。
E-mail : daisuke.hanawa@in.gt.com