「箸でつまめる差別化」を意識して商品を開発
―近年は業績が好調で、2017年度は売上高が900億円を突破しました。要因を教えてください。
これは、当社だけに限った話ではなく、即席麺業界の特徴にあると考えています。
国内だけをみると、日本は人口減少が進んでいます。食品にとって人口は大事な要素になりますので、国内市場は必ずしも好調とはいえません。くわえて、食品というのはどうしてもコモディティ化していくもの。そのなかにあって、即席麺は業界全体がここ数年、微増ながら成長しているんです。理由は、各社が新しい価値を提案するカタチで競争がなされているから。新しい技術や味を提案したり、おもしろいラーメン店とタイアップしたり―。単にマネをするのではなく、独自の付加価値で競争することで業界が活性化し、全体の底上げにつながっている。そうした健全な競争をして、「即席麺の魅力づけをしよう」という風潮が、業界内にあると私は考えています。
―そうしたなかでも、エースコックの特長はなんでしょう。
「新しい価値を提供する」という点においては、業界内でも積極的に取り組んでいる企業のひとつだと思います。
当社の商品づくりにおいて「箸でつまめる差別化をつくろう」という考えがあります。能書きだけで商品をつくっても、一時的な評価しかえられない。やはり、「食べて納得してもらえる商品づくりをしよう」と。
たとえば『スーパーカップ1.5倍』。それまでカップ麺の量は袋麺より少ない量でしたが、食べ盛りの高校生向けに「しっかり食べられるカップ麺をつくってみよう」と販売。ヒット商品になりました。『スープはるさめ』は、普段ラーメンをあまり食べない働く若い女性向けに春雨を使ってカロリーを抑え、オシャレにつくったんですね。これもヒット商品になりましたが、当初は販売店さんから「春雨って鍋に入れるもので即席麺ではないでしょう」といわれ、売り場さえありませんでしたからね(笑)。
さらに、「やりすぎるくらいがいい」という考えも当社の特長。最近は、商品の35周年にちなんでわかめが3・5倍入った『わかめラーメン』を発売。ネットでも話題になりました。今度は、7倍にしたらどうでしょうかね(笑)。やはり、食品も楽しくないといけません。インパクトがあれば、注目もされますから。ただし、商品はいたってマジメにつくっていますよ。
ベトナム進出成功の要因は 3つのモノをつくったこと
―現在は、売上の約半分が海外で、その大半がベトナムです。ベトナム進出が成功した要因を教えてください。
当社が行ったのは、おもに3つのモノをつくること。それは「品質」「販売ルート」「商品ブランド」です。
当時のベトナムには、その3つがありませんでした。品質は日本人が食べるとお腹を壊すレベルで、商品という感覚もないので「商品名」がない。「100グラムのしょう油味です」というわけです。即席麺がほしい人はお金をもって工場に直接買いに来るので「売りに行く」という発想もない。だからこそ、「日本の技術とマーケティングをもちこむとすぐに役立つ」という可能性を感じたんです。
―進出はスムーズでしたか。
最初は、原料の確保に苦労しました。現地では品質の安定した原料の確保が難しかったため、輸入するしかない。すると、どうしても価格を上げざるをえません。しかし、現地のみなさんはベンチャー精神が旺盛で、「これは行けそうだ」と思うと、設備投資をしてくれるんですね。すぐに製粉工場や包装紙の印刷工場をつくってくれたり。そうやって、徐々に現地と同じ価格で高品質の商品がつくれるように。
そして、販売ルート。「ある程度の規模で商売しているところには取りに行く前にこちらが運んであげますよ」と。しかも、代金は次にもっていったときにもらえればいいようにしました。すると、現金のある範囲しかできなかった商売が手広くできるようになり、販売店とともに成長するように。
あわせて商品名もつけ、日本流のテレビコマーシャルを流してブランドづくりも実行。この3つがうまく機能して定着すると、マーケットができてきます。すると、それを引っ張っている当社が供給力の差でシェアが取れるのです。その結果、現地で販売した『Hao Hao』は、ベトナム国内で消費される即席麺のうち3食に1食を占めるようになり、年間約16億食超のモンスター商品に成長しました。
また、ここまで成長したのにはもうひとつポイントがあります。
―それはなんでしょう。
技術とマーケティングは日本流をもちこみましたが、実際の運営や管理は現地の人にまかせたことです。たとえば『Hao Hao』の開発でも、パッケージはピンク色。日本では、食品にあまり使わない色ですよね。その辺りの感覚は、現地の人ならでは。ですから、ベトナムの人たちに助けられたからこそ、いまがあると思っています。
周りの援助があってこそ会社を続けることができる
―村岡さんが経営を行っていくうえで重視しているものはありますか。
まずは、周りのたくさんの人から助けてもらっていることをしっかりと理解しておくことです。
たとえば、エースコックの業績が振るわなかったとき、サンヨー食品さんに後ろ盾になってもらい、難局を切り抜けたこともありました。そういう経験から消費者はもちろん、同業者や取引先、社員の援助があるからこそ、会社を続けることができるんだ、というふうに感じています。 また、私は「心念不空過」という言葉を大事にしています。これは観音経にある言葉で「心に念じて虚しく時を過ごさなければ、すべての苦悩から解き放たれる」という意味があります。
これを経営に置き換えると、「いつも経営に対する問題意識を頭に置いておくこと」だと思っています。夜中でも食事をしているときも、24時間頭のなかに置いておく。そうすると、いろんなところでヒントをもらうことができ、答えを出せるんです。
経営者というのは、答えを出さないといけません。緊急性のない問題に対してすぐに反応するのではなく、つねに頭に置いておけば「これを変えよう」「こっちを選択しよう」という解答がえられる。これは、経営者として必ずやるべきことのひとつかな、と。
めざしていくのは「可能性追求企業」
―今後のビジョンを教えてください。
海外にかんしてはベトナムに続いて、ミャンマーにも進出。ベトナムで培ったノウハウを活用して、即席麺の文化を根づかせていきたいと考えています。ベトナムでは、カップ麺の浸透を図っていきます。現在、ベトナムのカップ麺は即席麺市場の5%程度ですが、まずは倍増にしたいですね。
全社でいいますと、社員がイキイキと仕事ができる「可能性追求企業」をめざしていきます。当社のスローガンは「Cook happiness」。おいしいものをつくることで、「ハピネス」をお届けするという想いが込められています。ですから、社員がもっと「ハピネスを届ける」ことが実感できるように、新たな挑戦をまかせたり、提案の場をつくるのが自分の仕事だと思っています。
村岡 寛(むらおか ひろし)プロフィール
1950年、大阪府生まれ。1973年に関西学院大学を卒業後、1975年にエースコック株式会社に入社する。1990年に専務取締役マーケティング本部長を経て、1994年に2代目として代表取締役社長に就任。村岡氏自身が積極的にしかけたベトナム進出が奏功し、現在では売上全体の約半分をベトナムでの販売が占めるまでに市場を成長させ、現地を牽引する食品メーカーへと発展させている。