―次に、個人のグローバル化とはどういうことなのか、教えていただけますか?
企業や組織体制がグローバル化できたとしても、結局直接マネジメントを行うのは「人」であり、結局のところ、お互いの信頼関係が一番大切です。特に、海外は上司だからと言って素直に話を聞くわけではないので、しっかりと信頼関係を築いた上でマネジメントしなければいけません。そのために必要なのがコミュニケーションですから、コミュニケーションの取り方をグローバル化する必要があります。 イギリス人やアメリカ人など欧米人が海外展開に強いのは、言語面の優位性もありますが、コミュニケーションを積極的にとれるからだと思います。大航海時代のときから培われている開拓精神でしょう。自分たちで現場に行って自分の目や耳で確かめたがります。だから現地の人たちと信頼関係が築けるのです。 日本人赴任者も、英語が得意不得意に関係なく現地の方々と、たくさん話していくべきです。もちろん本質的には、理解できるコミュニケーションを取れたのかが重要で、話す量が多ければいいという事ではありませんが、英語が第二言語なら、話す量でカバーすればいいのです。 実は、昔は私も話すのが苦手なタイプでしたが、今ではたくさん語るようになりました。最近では、マイクロソフトで新しいプロジェクトを立ち上げた際に、英語が母国語のメンバーがいる中で、プレゼンターに指名してもらえました。私も話す側の人間として認められたのだと感じ、嬉しかったですね。―岡田さんも、話すのが苦手だったんですか?どうして話すようになったのでしょうか?
そうなんです。マイクロソフトに転職したころは、英語が飛び交う中でなかなか会議に入り込めませんでした。実際、発言はしていたのですが、英語にはまだ自信がなかったので声が小さく、発言が流されることも少なくありませんでした。会議の中でわからないことがあっても、「Excuse me?」と言い出すことを躊躇していました。 そんなある日、チームメンバーから、「なんで兵吾は発言しないんだ?」と言われたことがありました。海外のグローバル企業では、早ければ1週間、遅くても3か月の間に、成果や存在感を出さなければ解雇されます。そこで、発言しない存在、と思われていることは、すでに崖っぷちに立っていることと同義でした。 危機感から藁にもすがる思いで、大きな声で話すようにしました。敢えて会議の進行側に回り、議事録を取りながら、わからないことがあれば、都度、内容を確認しながら話の流れに必死でキャッチアップしました。今では、いかなるミーティングでも一番に話すようにしています。余談ですが、マレーシアのマハティール首相の講演会に参加した際も、一番初めに質問したことでマハティール首相に覚えてもらえ、その後の懇親会の場でもお話しすることができました。 海外で仕事をする中で、自分の能力や存在価値を認められなければいけません。特にリーダーとしてメンバーを率いるのであれば、会社からだけでなく部下からも認められなければいけません。だから、言語を超えて提供できる自分の価値を必死に考え、行動するようになりました。―コミュニケーションをする上で、どのようなことに気を付けるべきなのでしょうか?
私が多国籍企業のマイクロソフトで働いている中で行きついた考えですが、働くために必要だと感じるコミュニケーションの基本姿勢をお伝えします。それは、「HHP+C」です。 Hungry、Humble、Proactiveと、Comprehensiveの頭文字をとって、HHP+Cです。私が勝手に作った考えで、最初はHHPだけだったのですが、最近ではComprehensiveも重要だと感じているので+Cにしました。 Hungryは、積極的に学ぼうとする姿勢です。質問することを躊躇してはいけません。海外では、わからない事はわかるまで聞くのが当たり前です。むしろ、わからない事があるにも関わらず質問しないのは、その職務を放棄しているのと同義です。日本人には、しゃべりすぎる人を悪く見る風習がありますが、海外ではそんなことはありません。どんどん質問すべきです。 Humbleは、丁寧なコミュニケーションの姿勢です。外国のビジネスマンは「直接的な表現でズバズバと発言する」という印象もあるようですが、私の経験上、相手への配慮がないコミュニケーションをする方はそれほど多くありません。むしろ、非常に丁寧な話し方をするビジネスマンがほとんどです。Hungryな姿勢で質問するのは重要ですが、品のある、失礼のない聞き方が大切です。 Proactiveは、前向きな姿勢です。どんなことがあっても、前向きに取り組み続けることが大切です。 Comprehensiveは、直訳では「包括的な」という意味です。圧倒的な多様性のなかで、独りよがりの考えとならずに、多文化や異なる考え方を理解しようとする姿勢、として私は捉えています。日本は極めて同質性が高い社会なので、Comprehensiveは日本人が苦手な領域だとは思います。海外に出れば、圧倒的な多様性に出会います。マイクロソフト・シンガポールにも60か国以上の国籍のプロフェッショナルが仕事をしています。だからこそ、マイクロソフトは、Diversity and Inclusionの考え方を持っていて、多国籍で多様な文化を持つ人たちが集まっていることは、つまり、多様な考え方が集まっているということで、それぞれのものを積極的に取り込んでいいものを作ろうとしています。 私もチームメンバーに言われることは、たとえそう思っていなくても、敢えて「素晴らしい」と言って反応しています。相手を理解する姿勢を示しているだけでなく、肯定的に捉え、その中になんらかの自己成長を求めることで、興味をもって話が聞けるようになるからです。 (次ページへ続く)次ページ > 外資系リーゼントマネージャーが語る人材マネジメント (3/3)
記事の監修
日本でクラウド勤怠管理システム「キングオブタイム」を開発し、国内シェア トップクラスを獲得したメンバーが、その海外展開として東南アジアへ進出。徐々に人事管理が浸透してきている東南アジアでも勤怠管理システムや人事管理システムを提供し、ローカル企業のクライアントも多数。 |