―事業概要、起業された経緯を教えていただけますか?
新卒でマイクロソフト日本法人に入社し、17年間勤務。実践を通しながらITに関する知識やスキル、人脈を得ました。近年になり、日本経済もずっと右肩上がりではなく、海外展開をしていかないといけない時期にきており、そのように考えるパートナー企業も増えていることを肌で感じたため、もともと起業を志していたこともあり、日本のIT企業の海外進出をお手伝いする会社を興しました。 事業内容は大きく2つ。クラウドサービスの販売代理店の役割とウェブサイト制作や動画配信などのデジタルマーケティング事業です。私の事業には、日本に貢献したい、という思いが根底にあります。自分の得意領域であるITを使い、日本にどう貢献できるかを考えたとき、人があまりやらないことをやってみようと思い、マレーシアを拠点にしてスタートさせました。―なぜマレーシアを選択されたのでしょうか?
最初は英語圏かつアジアのハブであるシンガポールが良いと考えていましたが、家賃、オフィス賃料、生活費…全てにおいてやはりコストが高い。そこで、東南アジア各国を比較してみたところ、英語圏であり、コストがリーズナブル、生活環境も比較的安心、IT企業の誘致に積極的、といった理由から必然的にマレーシアに決まりました。 もちろん、マレーシアのマーケットとしての成長性も決め手です。ただ、マレーシアだけでは人口3000万人でマーケット規模は小さいですよね。ですから、マレーシアでまずは地場を固め、そこを拠点に徐々にアセアン全域をマーケットとして事業展開を進めていきたいと考えています。―マレーシアでの事業展開で、日本と異なる点、苦労した点はありますか?
日本と比べて思ったようにいかないことが多いと感じます。IT企業が取得できるMSCステータスという優遇制度があるのですが、申請時、手続き方法が不明確で、きちんと整理されていないため、1カ月程度で終わると想定していたものが、結果的に6カ月もかかりました。自分で試行錯誤しながら、担当者をつかまえて打ち合わせをするなど、どんどん切り込んでいくことで、得られる情報が増えて前進できるということに気付きました。 また、ビザの申請の際には、車で1時間かけて手続きに行ったにもかかわらず、「マシンが故障しているから今日は受け付けられない」と帰され、2度目に行ったら「この書類がないからだめだ」とまた帰されました。日本では当たり前と思っていること、常識的に考えていたことが、そうではありません。現地の人はそういうことがあってもあまり気にしていないんですよ。これには軽くカルチャーショックでした。―ローカルスタッフの勤怠管理やマネジメントについてはいかがでしょうか?
弊社も勤怠管理システムの販売店として、マレーシアのローカル企業に対して提案活動をしているのですが、マネジメントの難しさについてよく話を聞きますね。 急に休んだり、急に辞めることもよくあり、事業運営がストップしてしまうリスクが高いので、同じポジションに2人用意しているとか。ただ、その人海戦術も、年々給与水準が上昇している中で、徐々に厳しくなっていくのはないでしょうか。 また、アジア全体にいえることかもしれませんが、時間管理への意識があまり高くなく、ゆっくり行動したり、遅刻が多かったりします。出退勤の時間をごまかすこともあるそうです。それを悪いことと感じていないから、誰かに打刻お願いしたり、互いに融通してチームワークでごまかしたりと、どんどんエスカレートしてしまいます。そのため、やはりシステムでの管理が必要と、企業側も考え始めているところですね。―よくわかります。日本であっても不正打刻は罪の認識が甘い。管理を徹底していくのは難しいですよね。どのような工夫をしていくのがよいとお考えですか?
とは言っても、システムで全部変えようとするのは無理でしょうね。中途半端に管理すると不正が増えてしまいますので、ローカルの事情を理解しながら、ステップを踏みながら定着化を図ることが望ましいでしょう。 また、ソフト面での改善も進めていかなければいけないでしょうね。教育とまではいいませんが、個々の人の心の持ち方に訴えていかないといけないと感じます。ある製造業では、朝にラジオ体操をしており、体操後に出社すると目立ってしまうので次からは目立たないように早く出社しようと自分自身で気づいて変わったという話を聞きました。会社の雰囲気や仕組みの工夫をすることで、全体として正しい姿に持っていこうと取り組むことにも効果があると思います。―なるほど。雰囲気作りも大事ですね。給与や評価面で効果的なものはありますでしょうか?
自分が平均より高い給与であると認識していれば、簡単には辞めないでしょうし、比較的給与が高い人は不正もしないでしょう。しかし、同僚・友達同士で給与を見せ合う傾向にあるので、透明性のある、根拠に基づいた給与水準にしないと不満が出やすいという特性もあります。また、福利厚生がしっかりしていると良い会社だと感じるようで、給与と福利厚生のバランスが良い会社は離職率が低く、勤怠管理に対するモラルも守られると感じます。 真面目に時間を守っていても、周りが守っていないなら、自分だけが損をしていると感じる人もいるので、休まずに出社したらボーナスを出す、時間通りに出社したらごほうび的なものを出す、といった、できている人をきちんと認めて評価することでモチベーションを維持させるという工夫も必要かもしれません。―今後の展開をお聞かせください。
直近では、スタッフを増やし、営業力強化、会社としての組織づくりを進めていきます。そして、クラウドパートナーの数を増やしつつ、ローカルのマーケットに切り込んで市場を広げていきたいと考えています。 今後は、デジタルマーケティングの領域にニーズが拡大していますので、SNSや動画、スマートフォンアプリを使い、低いコストで効率的なプロモーションを提案していきたいと考えています。日本の企業や自治体と組みながら、日本のコンテンツを東南アジアに広めて、ECサイトと繋げることで購買まで完結できる流れを作りたいですね。記事の監修
日本でクラウド勤怠管理システム「KING OF TIME」を開発し、国内シェア トップクラスを獲得したメンバーが、その海外展開として東南アジアへ進出。徐々に人事管理が浸透してきている東南アジアでも勤怠管理システムや人事管理システムを提供し、ローカル企業のクライアントも多数獲得。 |