2015年4月1日午後9時半、国家平和秩序維持評議会(NCPO)は、「プミポン国王から承認をいただいた」と発表し、2014年5月20日から続いていた戒厳令を約10ヵ月ぶりに解除した。
安倍首相との会談時にも促された戒厳令の早期解除。クーデター以降、欧米諸国は民政復帰を実現せず、戒厳令を敷くタイに対して、しばしば批判の目を向け、けん制を続けてきた。観光業に大きな影響を与えてきた戒厳令を現政権は放棄することで、国際社会の非難を避ける狙いがあったのは明白。
ただし、戒厳令を解除したものの、それに代わる強力な憲法を発動。すでに話題となっている「暫定憲法44条」である。簡単に説明すると、NCPO議長(プラユット暫定首相)が「いかなる命令を出せる」ということ。その権限は、司法、立法をも凌ぐ超法規的なもので、タマサート大学の教授は「NCPO議長は行政だけではなく、立法、司法に関係なく命令が出せるため、戒厳令よりも効力がある」と警鐘を鳴らしている。
44条が発令されると、EUの在タイ大使らは「一般特恵関税や貿易協定にも影響を与えるだろう。民政復帰がなければ、タイ経済へのマイナスは続いていく」と冷ややかなコメントを述べた。
具体的な内容は、国家の安定を阻害する可能性のある人物を逮捕・拘束することができ、政治運動を目的とした5人以上の集会の禁止など、内容も戒厳令とほぼ同じ。戒厳令の前段階にあたる「国家非常事態宣言」と「治安維持法」の組み合わせでいいのではないかという声も上がったが、ウィサヌ・クルアンガーム副首相は「非常事態宣言と国内治安維持法では、国内で起こる問題に対応することができない。44条であれば、一石二鳥となる」と説明している。治安維持法は事前の逮捕・拘束ができず、非常事態宣言は3ヵ月の期間限定、決定権者(暫定首相)に対して賠償責任を問うことができるなど、圧倒的な権力を行使できる戒厳令に比べると、どうしても“弱い”のである。
結果だけみれば、戒厳令が解除されたのは事実。果たして国際社会の批判の目を逸らすことはできるのだろうか。
一つわかっていることは、民政復帰まで、もうしばらく時間がかかるということだ。