慎重かつ大胆にアジア大航海時代を勝ち抜け
―まずエイチ・アイ・エスのアジア市場に対する取り組みについて教えてください。
澤田:非常に力を入れており、アジアのほとんどの国に支店を置いています。たとえば、タイでは首都のバンコクに限らず、全土に店舗を展開するなどの拡充をはかっているところです。これからは「点」ではなく「面」でアジアを押さえるイメージで、500店、1000店の出店を目指す準備を整えています。
そもそも、当社の利益は約3分の1が海外事業。毎年2ケタの成長率を示しています。中でもアジア地域の伸びは非常に大きく、おそらく3年から5年で日本の利益を抜いてしまうでしょう。また、昔はアジアの旅行客といえば日本人でしたが、今では4~5番目程度。すでに「アジア大航海時代」が始まっていると思います。
―エイチ・アイ・エスの競合は国内企業ではなく、海外の旅行会社になってきたのでしょうか?
澤田:ええ。特にアジア市場を睨んだ場合、競争相手は世界の旅行会社になります。日本企業だけを気にしているようでは、グローバル競争の中では決して生き残れません。
たとえば、エクスペディアに象徴されるように、欧米の旅行会社はシステム面が非常に強い。ですから、私たちはシステムだけでなく、サービスや商品内容などの総合力で勝負しています。現在はグローバル競争というピンチと市場拡大というチャンスが同時に広がっている状況ですね。
―澤田さんは「アジア経営者連合会」の理事長を務めており、池田さんはその中の「中国ビジネス研究会」顧問としても活躍しています。これまでの経緯を簡単に教えてもらえますか。
池田:私は1987年に会計事務所を基盤とした経営コンサルティング事業をスタートし、1994年に上海駐在員事務所を設立しました。現在は中国、ベトナム、カンボジア、韓国の計12拠点で約3200社超の日系企業をサポートしています。アジア経営者連合会には「海外で拠点展開している実績のある企業に会員になってほしい」という依頼をいただき、入会しました。顧問を務める中国ビジネス研究会は3年ほど前に立ち上げましたね。
これまで、アジアに進出してきた日系企業のほとんどは大企業だったので、「ヒト・モノ・カネ・情報」の経営資源をすべて持っています。ですから、私たちのサポートは会計・税務などのバックアップが中心でした。しかし、これからアジアへ進出するのは中堅・中小企業。大企業と比較すると経営資源が限られていますので、戦略策定やマーケティングの段階から私たちのノウハウを伝えています。
―アジア市場の魅力について、どのように考えていますか。
澤田:10数年前までは、アジアの人はほとんど海外に出ていませんでした。しかし、近年は経済成長が進み、海外への人の動きも急速に活発化。国によっては10~20%のインフレを伴いながら、中間層が急速に拡大している状況にあります。
おそらく、日本では「1」の成功が、アジアでは「3」や「5」になるでしょう。もはや日本国内だけでビジネスを考える時代でないことは明白です。慎重かつ大胆に経営すれば、中堅・中小企業にも大きなチャンスがありますよ。
池田: 同感です。従来の日本とアジアとの関係は、日本人が観光に出かける、日本企業がアジアに進出するという「1WAY」でした。ところがいま、中国をはじめアジア人の所得が増え、同時に企業も力をつけたことで、アジアからも日本に人が流れる「2WAY」の関係性に変わりつつあります。私たちにとっても日系企業のサポートだけでなく、アジア全体の企業をサポートできるのではないかと考えています。
その一環として、アジア各国で会計税務のサービスを行っている仲間たちと「中国・アジア進出支援機構」という連合体を作りました。これは中国、香港、ベトナム、カンボジア、韓国、台湾、タイ、モンゴル、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、バングラデシュの13ヵ国23拠点で構成する組織で、機構全体で進出企業をサポートしていく予定です。
―アジアに出て成功する会社と失敗する会社の違いは何でしょうか?
澤田: 当然ながら、国によって法律、文化、商慣習はさまざまです。それを理解しないで安易に進出を試みると失敗してしまいます。だからこそ、池田先生のような専門家のアドバイスが必要であり、成功している企業はそういった知識やノウハウを賢く吸収しています。また、現地でパートナーとなる企業を選ぶ際、慎重に相手を見極めるべきです。「いい商談だから」と、ろくに相手企業を調べずに進めると、高いリスクを背負ってしまいます。
池田: 当社のサービスとして相手企業のバックグラウンド調査も行っているのですが、日系企業の多くは「ビジネスパートナーの実態を調べる」という意識に甘さがあります。日本の感覚で性善説に立ってしまい、相手を疑うことが少ないのです。たとえば、アンダーマネーを使って伸びてきたような企業と組んでしまったら、うまくいくわけがありません。上場企業の場合、コンプライアンス上でも致命的な痛手を負ってしまいます。あくまでも正攻法で伸びてきた企業かどうかを確認するのは非常に大事です。